BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――緊張感高まる

 昨日にも増して静か! トライアルは最終戦、シリーズは準優と、まさに胸突き八丁の一日であるが、ピットには静謐な空気が流れているのである。だいたい1R展示前というのは、朝の試運転やスタート特訓が終わって一段落つき、プロペラ調整や整備、あるいは控室での休息など、選手の姿は室内にあることが多いので、装着場などでの動きはあまり見られなくなるのがまあ普通ではある。比較的穏やかな時間帯であるのは確かだ。しかし、年間最大の勝負駆けというべき一日に、その静けさはむしろこちらに緊張感を強いる。トライアル組で最初に姿を見たのは磯部誠。終盤の時間帯などでは磯部のほうから話しかけてくることも珍しくないのだが、今日は一瞥しただけでふっと目をそらし、挨拶を交わすいとますらない。ピリピリしているのは明らかで、そういう選手の心中が大きな集合体になって静けさを生んでいるのかも、と思ったりする。

 整備室やプロペラ室を覗き込めば、選手の姿は鈴なりである。特にプロペラ室は人口密度がかなり高く、トライアル組もシリーズ組も、真剣な目つきでプロペラと向き合っている。装着場のほうから見て左奥の隅には、ゴールデンレーサーのレーシングスーツを着用する一群。茅原悠紀、桐生順平、毒島誠。今節、ペラ室を覗き込むといつも彼らがそこに陣取っていた。その輪に加わるように、関浩哉も毒島の隣でペラを叩いている。そういえば椎名豊や土屋智則をそこで見た記憶はないなあ。特に意味はないだろうけど。

 その一群にはいつも馬場貴也の姿もあったのだが、馬場は本体整備に取り組んでいた。本体を割っていたのはトライアル、シリーズあわせて馬場だけだ。優勝戦行きは絶望的とはいえ、レースに向かうモチベーションは変わっていない証しと言っていいだろう。エンジン吊りの際に見かけると、いまだ元気がないようにも見えるのだが、しかし勝負に懸ける思いは薄れることはない。勝負駆けにはほぼ関係ないとなるとオッズが高騰しがちだが、あまりとらわれないほうがいいだろう。

 ペラ室の手前のあたりには片岡雅裕。彼もそのあたりが節間通して定位置だった。面白いもので、別に叩く場所が指定されているわけでもないのに、節間通して同じような位置で叩いている選手が多いものである。片岡は1着でもボーダーが下がるのを待たねばならない状況。それでも、なのか、だからこそ、なのか、まったく闘志衰えることなく、調整にも精を出す。

 その少し奥ではいつも峰竜太がプロペラ調整をしているのだが、今日は姿なし。またゲージ擦りかと思って整備室のほうに足を踏み出すと、整備士さんを従えてモーターを丹念にチェックしている姿があった。一見して何の作業かはよくわからないのだが、キャリアボデーと本体の接地部分を入念に見ているようであった。何か異常があったというわけでもないだろうが、ほんの少しでも違和感があれば解消しようというのがトップレーサーたちの習性。トライアル最終戦を迎えた日とあらば、さらに緻密な点検となるのもうなずけるというもの。

 整備室には臨時プロペラ調整所があって、そこには松井繁の姿があった。松井は今節、ずっとこの調整所で作業をしていた。ほかに濱野谷憲吾、田中信一郎、篠崎元志もここが定位置。ちなみに、その調整所には段ボールが敷かれていて、それが調整所であることを示している。ようするに、王者が段ボールの上に座ってペラを叩いている、という光景である。不思議な光景とも思えるが、環境などにとらわれることなどなく、ひたすら調整に没頭するというわけなのだ。

 1Rのエンジン吊りに石野貴之があらわれた。やはり目つきがさらに鋭くなって、頬も引き締まっているように見える。優出はほぼ当確と言っていい状況だが、石野が見ているのはそこではない。重要なトライアル3戦を前に、早くも闘志の高まりが見て取れる。そんな石野も、まくり切って勝ってゴキゲンな森高一真が、西山貴浩と漫才のようなやり取りを始めるとニッコリ。この二人、昨日も勝利者インタビューを受ける石野に野次を飛ばして苦笑いさせていたコンビで、ようするにヒリヒリする石野を束の間でも癒やしているのでしょうね。いい状態のメンタルで第3戦に臨めるのは間違いなさそうだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)