BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――考える人

 長い通路を通って仮設整備棟へと向かう途上で、寺田祥とすれ違った。どちらかといえばクールな振る舞いの人で、挨拶をすると朗らかに返すのではなく、静かに会釈を返すというタイプではあるのだが、こちらの巨体が近づいてもまったく気づく様子がない。深く深く思考の森に分け入っているようで、視線を下に向けたまま一点を見つめ、やや遅めの歩様で歩いているのだ。普通にすれ違ったということは、人の気配を感じてはいるのだろう。ただ、視界にこちらが入らないほどに、考え込んでいるわけである。おそらくは11Rの戦略、もしくはそこに向けての調整の方向性であろう。ということで、こちらから挨拶をして思考を途切れさせるわけにはいかないと思い、僕も黙ってそーっとすれ違ったという次第。

 3日目に入って、同じように考えこんでいるような選手が増えているような気がする。同郷同士として、いつだって明るく声をかけてくれる飯山泰も、今日は3度ほどすれ違っているのだが、こちらを一瞥して軽く会釈する程度。やはり調整なのか戦略なのか思考に入っているのは明らかで、こちらとしてもおいそれと声はかけられない。

 原田幸哉も同様だ。今節はうつむき加減の姿ばかり見かけている原田、そのときもやはり下を向いて歩いていた。ただし、レース後ではないこのときは、フォルム自体は似ていても、落胆しているはずなどなく、やはり思索中だったのだろう。11R6号艇、前付けなのか、6コースから展開を突くのか。そのためにはどんな仕上げを施していくべきか……。その後、同じポーズの原田とすれ違うこととなったのだが、やっぱり挨拶すらためらわれるほど、思考に集中しているようだった。

 上平真二も、そうした姿を見せていた一人。ヒゲと笑顔が素敵な男だが、ピットではマスクをしているため、ヒゲも見えないし、笑顔もない。深刻な表情で腕を組みながら、これまた明らかに考える人と化しているのである。これがまた、9Rのレース後も同じだった。3号艇2着も、レースぶりに対してなのか、仕上がりに関してなのか、結果に対してなのか、ひたすら考え込んでいるような風情で控室へと戻っていったのである。レース後だからヒゲは見えていて素敵だったけど、やっぱり笑顔はなし。よくよく考えてみれば、レースこそモーターの感触に関する特上のデータなわけで、敗れたから悔しそう、なんていう単純なものではないのかもしれない。もちろん、広島ワンツー(1着:西島義則)なんてことは微塵も頭にはないようであった。

 こうした思索の様子をよく見せるのが、菊地孝平である。聡明さは天下一品。その頭脳コンピュータをフル回転させているような、それこそスイッチを入れて思考を深めている姿は、勝負どころになればなるほど、よく見られるもの。今日の終盤の時間帯も同様であった。その様子は、なんと新兵仕事をしながらでも発揮されていた。艇旗艇番を運搬し、所定の場所に整理して戻し、アカクミ(スポンジ)も整理する。菊地の新兵姿は実に久しぶりに見かけるものなわけだが、その最中も完全に考える人モード。昨日今日と快調ではあるが、まだまだ上積みを狙っての調整を考えているということかもしれない。

 勝者についてもひとつ。10Rを2コース差しで制して、得点率も好位置につけている濱野谷憲吾。控室に戻る際、多くのカメラマンがその姿をおさめようと、扉付近で待ち構えていた。すると、濱野谷は小首を傾げながら目を細めて軽く会釈。かわいいっ!(笑)今節、何人かの勝者の帰還をここで見てきたが、カメラマンにアクションをする選手は初めて目撃しました。なんかうらやましくなってしまって、扉を開けて室内に入ろうとする濱野谷に僕も会釈をしてみたら、まったく同じポーズで会釈を返してくれた! なんか嬉しい! 気分上々なのは間違いないっすね!

 さて、前半でターンマークに接触して転覆、その上に江口晃生が乗り上げるという事故となった森高一真。肝を冷やした瞬間だったが、12Rをご覧になった方はご存じの通り、無事にレースに登場している。記者席にはすぐにボート変更の告知があり、後半も走ることがわかって安堵したものだが、ピットでいつもと変わらず調整作業をしている姿を見てさらに安心。吉川元浩と話しながら「アハハハハハ!」と声をあげて笑ってもおり、ファンの皆様もご安心を。江口が不完走となったことで妨害失格をとられ、賞典除外となってしまったが、明日ももちろん走る! おおいに盛り上げてほしいぞ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)