BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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明日はいいことあるはず!の3日目後半ピットから

 一瞬にして空気が硬くなった。レースを映し出しているピット内のモニターに「返還①②③」の文字が浮かび上がる。8R、3艇フライング。日高逸子、細川裕子、中田夕貴だ。日高はなんとコンマ09の勇み足。グレートマザーでもスタート勘が狂ってしまうことがあるからボートレースは一筋縄ではいかない、ということだ。

 細川裕子のフライングは、地元の人たちにとっても、何より本人にとって、痛恨だった。足はかなり仕上がって来ていたと見えただけに、なおさらである。
 レース後、中田も含めて、沈鬱な空気のなかでエンジン吊りを行なう。他の選手もなかなか声をかけにくい、というシーンはいつも通りだ。フライングはやはり、誰にとっても手痛すぎる事態である。

 9Rでは、待機行動でざわつきが起こっている。1号艇、インに陣取った岩崎芳美が発進できずに大時計が0秒を超えてしまったのだ。まさかの出遅れ。しかし岩崎は、素早くピットに戻り、大急ぎでリフトに飛び込んでいる。係の方も大急ぎでリフトを操作。かなりの慌ただしさで岩崎はピットに上がった。

 陸に挙げられたボートの右横っ腹からは、滝のように水が流れ落ちている。そう、ボートに穴があき、浸水したことでスタートが切れなかったのだ。そのままでは沈没してしまうため、岩崎は急ぎピットに帰還したという次第。ピット離れの際に2号艇の渡邉優美と接触して、穴があいたらしい。だから、渡邉は勝利をあげたけれども、表情は明るくならなかった。岩崎に申し訳ないことをしたと気遣ったのだろう。もちろんこれは不可抗力であり、岩崎自身もただただ肩を落として控室へと戻るのみだった。
 ボート交換のためピットに戻ってきた岩崎は、「もったいない……」と呟いた。あれはあまりにもツイてないですよ、と言葉をかけても、岩崎はただただ表情を暗くした。朗らかで穏やかで優しい人柄の岩崎が、顔を曇らせたのだ。岩崎にとって、なんとも悲しすぎる出遅れとなってしまったということだ。

 10Rでは深川麻奈美が転覆。嗚呼、事故3連発……。幸い、深川は着替えを終えてボートの引き上げに立ち上がっており、身体のほうは問題なさそうだ。それにしても今日は前半でも浜田亜理沙が妨害失格、佐々木裕美がエンスト失格(両者は負傷で帰郷)という事故があったし、7Rでは刑部亜里紗が転覆している(身体は無事で、いつも通り新兵仕事に駆けまわってました)。今日は事故があまりにも多発してしまった……。明日は無事故で、と願わずにはおれない。

 で、こんな日に、選手班長の宇野弥生は走り回ることを強いられるわけである。岩崎のボート交換にも立ち会ったし、深川の転覆後には医務室に駆けて行ったし、また転覆整備にも立ち会ったし、そのほかにも班長は立ち会わなければならないのだ。大変ですね、と話しかけたら、「今節は修行です」と苦笑い。疲れる一日だったろうなあ……。明日はきっといいことある! 勝負駆け、頑張って!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)