BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――静かな3日目前半

 目立った動きがまるで見られない3日目前半のピット、であった。装着場で見かける選手はといえば、何人かがボート回りで作業していたりもするが、ほぼ係留所から控室へだったり、ペラ室から整備室へだったりの移動中の人たち。整備室を覗いてみても、大きな作業をしている選手は皆無で、どことなく空気が落ち着いているピットなのである。整備室で作業をしていたのを見たのは今垣光太郎。ギヤケース調整とペラゲージ擦り。やはり大きな作業とはいえない。

 おそらく湯川浩司もギヤケース調整を行なった。ピットに足を踏み入れた瞬間、ギヤケースを装着している姿を見たからだ。もっと早い時間に大きな整備をしていた選手もいたかもしれないが、少なくとも1R展示前後には見当たらず、やったとしてもギヤケース調整。ようするに、外回りを点検したりペラを煮詰めたり、そういう段階に入っているマスターズたち、ということである。

 もちろん試運転に出ている選手は少なくない。特にレースが近い選手たちのボートはおおむね係留所にあり、展示が終わると青灯がつくのを待機している選手がズラリ見られる。青灯とは試運転OKの合図であり、これがついている間は水面に出ることができる。これが赤灯に変わると試運転禁止の時間帯ということで、水面に出ている選手も係留所にボートをつけたり、装着場にあげたりするわけだ。だいたい締切7分前に赤灯、という感じだと思う。それからレースを挟んで展示が終わるまで赤灯がついている。

 ペラ調整室、屋外のペラ調整所にも選手の姿は多い。調整室では松井繁、北村征嗣、山本隆幸の師弟軍団が膝を突き合わせるかのように固まってペラ調整。ファミリーが近くにいるのは心強いだろうし、またアドバイスも送り合いやすいことだろう。

 屋外の調整室には辻栄蔵と石渡鉄兵が並んで叩く姿。74期の同期生同士である。本栖の頃から同期のなかでも仲が良いほうだったという二人。時折、言葉を交わしては笑い合ったりしており、絆のようなものも感じられるわけである。

 で、なんと今日になって気づいたのだが、整備室の奥のほうにもペラ調整所があるのだった。桐生の整備室って、そうだったっけ? これまでの桐生取材のときにも気づかなかったし、3日目になってようやくそこにあるのを知るとは。前半の時間帯は中島孝平の姿がそこにあった。また、そちらのほうから寺田千恵が姿をあらわしていて、外から死角になっている場所で叩いていたものと思われる。

 とまあ、ハッと目に留まるような動きが見られないので、ピット内をうろうろと歩き回って、通常運転の選手たちを眺めていた3日目前半、なのでありました。派手な行動や出来事があるピットももちろんエキサイティングではあるが、ややゆったりした雰囲気のピットも神聖感が高まるので好きです。みな粛々と、淡々と調整を進め、予選後半への準備を整えているのであります。

 さて、1Rでは5号艇の石川真二が、2Rでは江口晃生がピット離れで飛んで、内寄りコースを奪った。ともに2コースまでだったが、江口は展示ではインを奪っている。本番だってもちろん、インを獲りにいった。だがかなわなかったというわけだ。

 で、石川が6着、江口が3着という結果だったこともあるわけだが、二人とも首を傾げるレース後だったのである。彼らは勝つために内寄りコースを目指すのであって、動けばそれで良しでもないし、負ければただただ悔しい。石川は賞典除外で勝ち上がりはもうないわけだが、そんなことは関係ない。目の前のレースを全力で(スタートには気を配ってということになるだろうが)勝ちにいくのみ。もちろん足色的な問題も含めて、レース後には不満げな表情になるわけである。

 同時に、1Rの益田啓司、2Rの三嶌誠司の両1号艇もまた、悔しがるレース後である。インを死守できたからそれで良し、とならないのは当然。外枠が動けばインは逃げにくくなるのは道理でも、インに入る者としてはそんなことは関係ない。起こしが深くなったとしても、全力で逃げることを考えるのみなのである。益田は2着、三嶌は4着。外枠が動いてきたから負けた、とかではなく、ただただ1号艇を活かせなかったことを悔やむのみ。1号艇に組まれて外枠に江口や石川がいたら頭を抱えたりもするだろうけど、水面に出れば全力で勝ちに行って、負けたら全力で悔いをあらわにするのである。

 益田は着替えを終えると、速攻で6Rの準備を始めていた。この借りを次のレースで返すべく、準備も全力。それもまた勝利をもぎ取りにいく姿勢なのである。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)