BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――氷雨のなか

f:id:boatrace-g-report:20171212170223j:plain

 金田幸子、おめでとう! 水神祭の模様はすでにお伝えしたが、金田がSG初出走で初1着という快挙を成し遂げた。金ちゃん、やるじゃないの! この1着はひたすら大きい。これが少しでも自信につながるのであれば、金田幸子はさらに逞しいナデシコとなるだろう。

 水神祭も爆笑ものだったが、その前にも金ちゃん劇場はあった。水神祭を撮影しようと待ち構えていたカメラマンを見つけて、突如脅え出した金ちゃんは、挙動不審に陥って、視線キョロキョロ、足元フラフラ。その後、勝利者インタビューを終えて控室に戻ろうとすると、報道陣が押し寄せる。まるで白鵬に寄り切られるがごとく後ずさりした金ちゃんは、建物の壁に押しつけられるように取り囲まれ、ほとんど監禁状態。か弱い女性を屈強な男どもが寄ってたかってイジメテル、という図にも見えるわけで、輪に加わっていない人たちがあははははと笑いながらそれを眺めるのであった。どんなときでも、彼女が動けば金ちゃんワールドが繰り広げられる。不思議感覚の女王、本当に貴重な存在である。これを機にもっとSGに来てもらわないと。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212170235j:plain

 それにしても、水神祭後の金田は本当に寒そうだった。前半記事にも書いたが、今日はひたすら寒かった。降りしきる雨がピットの空気をキンキンに冷やしていたのだ。

 そうしたなかで、とことん試運転をしていたのが土屋智則。10R終了後には帰宿バスの1便が出発しており、その頃には装着場はただただガラーンとしており、選手の姿が見られなくなっている。そんななかで、水面でただ一人走っていたのが土屋なのだ。寒さなど関係ない。納得できるまで走らねば気が済まない。そんな風情で、土屋は氷雨の中を走り続けた。装着場にいて視界に入る選手は水面の土屋ただ一人、なんて時間もけっこうあった。ようやく試運転を終了し、陸に上がったときには選手の姿が皆無で、エンジン吊りすらままならないという状況(見つけた三浦永理が猛ダッシュで駆けつけてました)。それほどまでに、土屋は徹底して走った。チャレンジカップではSG初出場初1着を金ちゃんと同じようにやってのけたが、こうした努力の賜物って部分も多々あるのだろう。

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212170247j:plain

 とことんやってた、というなら、峰竜太のプロペラ調整もそうだ。11R発売中、すでにドリーム組の大半がボートを展示ピットにつけたというのに、峰のボートはいつまでも調整用の係留所につながれていた。ペラ室を覗きこむと、案の定、峰の姿が。峰はギリギリまで、ペラを叩いていたのだ。昨日の会見では足はいいって言ってたはずなのに、まだ何か足りないところがあったのか。もっとも、峰のとことん調整は珍しいことではなく、なかなか調整の手を休めようとしないのが竜太流ではある。決定戦には出ることができず、シリーズ出場は初出場だが、峰は決定戦もシリーズもなく、いつも通りに全力を注ぐつもりだ。それが、12人漏れの悔しさを紛らすことになるのかも、とちょっと深読みしたりもするのだけど。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212170259j:plain

 さて、今日は1号艇、1コースがよく負けた。住之江SG(というか暮れの賞金王)で1日イン4勝って、あったのかしら。戸田でもここまで勝てないSGは珍しい気がするので、次々に負けていく白いカポックを見ながら、ちょっと戸惑いを覚えたほどだ。

 11Rでは昨年の賞金王が敗れている。山崎智也だ。Nifty時代から何度も書いていること。それは「智也は敗戦の悔しさを笑顔で隠す」。負けた時ほどよく笑い、勝った時のほうが笑顔は少ない。ただし、周囲の目があるところでは笑っていながら、ふと顔が曇る瞬間がある。こちらが本音だ。他人に弱みを見せつけまいということなのか、敗戦後に笑っている智也は本当によく見かけてきた。

 しかし、今日の智也は違った。ピットに戻った直後は確認していないが、エンジン吊りを終えて控室に向かっていくさなか、智也は人目をはばからずに顔をしかめたのだ。視線は下を向き、表情にはありありと悔しさがにじみ出ている。こんな智也、見たことがあっただろうか……。昨年の賞金王としては、実はこのシリーズ戦に懸けるものは大きい――そんなことを深読みして、鳥肌が立った。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212170311j:plain

 12Rドリーム戦でも1号艇は敗れた。森高一真だ。チャレンジカップ優勝戦で自分からの舟券がめちゃ売れていることをレース前に確認し、途端に緊張感を覚えたという森高。つまり「自分を買ってくれた人に絶対に迷惑をかけたくない」が森高の信条だ。SG初日のメインカードで1号艇にすわるということは、同様に多くの支持を集めるということである。それだけに、この敗戦は自分をおおいに責めるものとなっただろう。

 それが証拠に、森高が控室へと歩くスピードは、なんとも遅いものだった。峰竜太との差はあっという間に広がり、明らかに伸びが鈍い。ヘルメットもとろうとしないし、ヘルメットをかぶったままの顔は明らかにうつむいているし、森高はこの敗戦をまったく許せないものだととらえているようだった。

 森高に言いたいのは、話は簡単だということである。明日からも直近SGチャンプの舟券を買う人はたくさんいる(そのなかにはたぶん僕も含まれる)。その人たちに貢献し、大儲けさせればいいのだ。森高もきっとそれをわかっているはずで、今日の借りを返すべく、明日からはさらに気合の入った森高一真を見られることだろう。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田=土屋 TEXT/黒須田)