「昨日よくなかったのでペラを叩いて、
朝乗ってみたら、やっぱり良くなかったので、
さらにペラ叩いて試運転をします」
ドリーム戦インタビューでそう語っていた松井繁。
開会式記事をアップしてピットに向かうと、
松井はすでにボートを係留所につけて、回転調整の作業をしていた。これぞ王者の姿。インタビューから戻ったあと、
速攻で動いたのだろう。「タイム・イズ・マネー」という座右の銘は、
単なるお題目ではないのである。
その頃、ドリーム組の多くは整備室にいた。
これは初日恒例とも言える光景で、
開会式から先にピットに戻った他の選手が
試運転やペラ叩きに飛び出すなか、
12R1回乗りとたっぷり時間があるドリーム組が、
モーター本体の点検やギアケースなどの
外回り調整を行なっているのである。
芦屋の整備室は、整備用テーブルが奥のほうになって、
入口から覗き込んでも詳細な様子はよくわからないのだが、
湯川浩司や今垣光太郎がギアケースを手にしているのが確認でき、そして松井はその輪には加わっていなかった、というわけだ。
この記事を書くために戻った記者席からは、
松井が水面をブンブンと走っている姿が確認できている。
5R発売中には馬袋義則と足合わせもしていた。
これを粛々と続けることで、「良くなかった」というコメントは
ポジティブなコメントに上書きされることになるかもしれない。
それにしても、雨の中だろうと、
選手たちは水面に飛び出していくことをやめない。
初日は毎度こうではあるが、天候を考えると、
選手たちの優先しているものの尊さを思わずにはいられない。
たとえば、石野貴之が試運転で水面を駆け、
いったんピットにボートを上げて、
作業後またボートをリフトに向ける。
レースで先行艇の水しぶきを浴びるのは嫌なものだが、
雨にぬれることなどどうってことないのだ。
試運転可能の信号灯(青ランプ)が点るのは展示航走が終了して
1~2分ほど後のことだが、
濱野谷憲吾が展示の間じゅう係留所で
青ランプが点るのを正座して待っていた。
どうして正座してるのかはよくわからなかったが、
ともかくランプ点灯と同時に水面に飛び出そうとして、
その場にいるのは明らかだった。
展示が終わるとボートに乗り込み、エンジン始動。
ランプが青に変わった瞬間に、ピットを飛び出していったのだった。
このクラスの選手たちは、
こうした執念を絶えず燃やし続けられるから、
この舞台にいられるのだろうな、と思った。
さてさて、1Rを制したのは平本真之。
5コースから鮮やかなまくり差しで、インの山崎智也をぶち抜いた。
そうです、これがパパになっての1勝目です!
というか、パパになっての初戦を勝利で飾ったわけだ。おめでとう! というわけで、レース後に声をかけると、
素直に爽快な笑顔を見せた平本。
「よっ、パパ1勝!」と拍手を送ると、アハハハァ、と軽やかに笑った。
そりゃ悪い気分のはずがないよな。
青山登さんによると、「息子さんに一言」と振ったら
「パパやったよ!」と答えたとか。
背負うものがひとつできて、平本はさらに強くなるはずだ。
本当にでっかい誕生祝いを最終日に手に入れてもおかしくないぞ。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)