11R発走が迫ったころ、係留所で調整をしていた菊地孝平が
ボートを陸に上げた。すでに試運転などを行なっている選手はおらず、菊地以外は陸での作業をしていたわけだが、
ボートリフトが動く音を聞きつけた選手は、
いったん仕事の手を休めて菊地のもとに向かっている。
まず湯川浩司がゆったりと向かい、
その気配に気づいた山田哲也が駆けつける。
菊地は、すぐにモーターを外すつもりはなく、
その場でもう少し点検をするつもりだった。
そこで、湯川と山田にお礼を述べつつ、彼らの動きを制している。
湯川と山田は、自分の作業に戻る。
3秒後、そのやり取りを見ていなかった平本真之が、
遠くで菊地の姿を見つけて、大急ぎで駆けつけた。
菊地に笑顔で制される平本。
手の空いている者は、いや、作業中であろうと、
仲間のエンジン吊りには走って駆けつける。
この光景は、SGだろうが一般戦だろうが、ピットにいれば
日常的に見かけるものである。
ただし、やはりまず動き出すのは若手選手で、
このときも菊地よりも後輩選手がまず菊地のもとに向かった。
若者たちは、自分の作業に没頭しながら、
先輩の動きにも気を配って過ごしているわけだ。
それから10分ほど経った頃だろうか。
整備室の自動ドアが勢いよく開いて、佐々木康幸が飛び出した。
駆け寄ったのは、菊地孝平のもと。
菊地はついにモーターを外しにかかったのだった。
その様子に真っ先に気づいたのが佐々木で、よくぞ離れた場所、
しかも室内から気づいたものだと感心する。
こうした感覚も、選手たちは鋭い。
佐々木の勢いには、もちろん誰もが気づく。
菊地よりも先輩の選手が走っているのだから、若手は即座に反応した。古賀繁輝、新田雄史、山田哲也、平本真之が立ち上がってダッシュ! 装着場の奥にいた桐生順平も、かなりの距離を全力疾走して、
菊地のもとへと集合している。
まるで、菊地を旗に見立てたビーチフラッグのような様相。
菊地も、一気に若者たちに駆け寄られて、苦笑いを浮かべていた。
圧のかたまりが一挙に押し寄せたのだから、
つい顔がほころぶ気持ちはよくわかる。
彼らは、菊地にほとんど何もさせることなく、エンジン吊りを始めている。モーターを二人がかりで外し、架台に乗せ、工具類も架台にまとめて、その架台を整備室に運ぶ。ボートは他艇が置かれている場所に
移動して、丁寧に並べている(桐生が一人でやってました)。
気づけば、菊地はなんと手ぶら。
まるで、ただその場を通りかかった他人のような装いになって、
菊地は集った若手たちに何度もお礼を言っているのであった。
で、一連の流れが終わると、それぞれが何事もなかったように
自分の作業に戻っている。
その手際の良さは、何度見てもお見事と言うほかない。
走る選手といえば、三嶌誠司も走り回っていたな。
9R1回乗りだった三嶌は、10R後に出発する帰宿バスの第1便には
乗らず、居残ってプロペラ調整をしていた。時に激しく、
時に繊細に木槌を振り下ろす姿も印象には残っていたのだが、
その合間に整備室に向かったり、控室のほうに向かったりする際には、常に全力疾走なのであった。
今朝も、額に汗して飛び回っている姿を見ているが、
いやはや、なんとも若いっすね、三嶌誠司44歳は。実は私は同い年。さっき締切間際に舟券買おうとダッシュしたら、
いきなり足首がグキッといいました。
そんな思いをしながら買った舟券も外れました……。
えらい違いである、私と三嶌では。
そもそも比べるのが間違っているわけですが。
さてさて、昨日も書いたが、山崎智也と川北浩貴のツーショットは、
本当によく見かけますね。絡みそのもの以外でも、
12R前に智也が川北のボートにアカクミ(水をかき出すためのスポンジ)を配っている姿も発見している。
こうした翌日のための準備は、支部ごとに行なわれるのが基本。
その支部の最若手が、先輩の分まで行なうのが普通だ。
今節の群馬支部は智也と江口晃生の2名。
したがって、智也は江口のための準備が
仕事のひとつになっているわけである。
智也はさらに川北の準備もしているわけで、
やっぱり仲良しの大親友なのだ。
それとも、滋賀支部から単身参戦の川北は、
今節は群馬支部に間借りですか?
で、71期の同期生といえば、もう一人いますね。深川真二だ。
その深川と智也は、ドリーム戦が近づいている時間帯に
話し込んでいた。その姿は智也からのエールのようにも見えて、
深川の表情も和らいでいた。やっぱ同期っていいですねえ。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)