勝負駆けの朝は、実はピットは静かで穏やか。これはもうＳＧの定番である。この期に及んでジタバタはしない。というより、勝負駆けに臨むポジションにいる選手は、すでに方向性を見つけているから、大きな動きを必要としないのだ。
だから、平本真之が本体を割っているのを見て、かなり訝しく思えたのだが、聞いてみたら部品交換などの整備ではなく、点検をしているとのこと。今日は９Ｒ１回乗りで時間があるから、万全を期してチェックをしているようだ。つまり、平本も慌てて何かをしているわけではない。出走表を見た時点でこの動きは予定したのだろうし、そうでなければ猛者ばかりのこの舞台では戦っていけない。
選手の動きに関してはそんな様子だが、しかし選手の気持ちはもちろんグッとテンションが上がっていく日ではある。特に、準優に進むためのノルマを抱えている選手は、それをクリアしようと力が入る。いや、当確組だって、先々のことを考えれば、ここでポイントを積み重ねて、予選順位上位で次の段階に進みたい。ピットは静かで落ち着いてはいるが、渦巻くものは熱いのである。今日、目立ったのは峰竜太かな。本人は淡々と作業をしているのだろうが、顔がややカタくなっていた。レース前に緊張するのはいつものこと。そして緊張したほうが好結果を生むと峰は考えている。だとするなら、これは実にいい雰囲気だ。
桐生順平もいい雰囲気に見えた。適度に気合が乗り、適度に緊張し、適度にリラックスしている、というか。同期の鎌倉涼と談笑するときには穏やかな顔つきで、一人になるとぎゅっと頬が引き締まる。ニュージェネの盟友・毒島誠と顔を合わせれば、また笑顔。話がレースやエンジンやペラのことに差しかかれば、また頬がぎゅっ。いい状態で勝負駆けに臨めるのは間違いない。
一方、ひたすら己の世界に入っているような感じに見えたのは、吉田拡郎だ。去年から、勝負どころではこんな感じかな、拡郎は。いや、それ以前から、レースを控えているときには声をかけにくい雰囲気を醸し出すことがあったが、それがさらに強くなっている感がある。前検日には拡郎のほうから声をかけてきたのに、今日はすぐ横をすれ違っても素通り。戦闘モードに完全に切り替わっているのだ
で、拡郎とは正反対と言ってもいいし、桐生とも少し違う雰囲気だったのは、白井英治。もうリラックスしまくりなのだ。池田浩二や寺田祥と喫煙所で談笑している姿を見ていると、今日はもうレースを終えた選手のようにも見えてくる。足色が上向いてきているという精神的にプラスな要素もあるにはあるが、これがＳＧをやっとの思いで獲った男が身に着けた風格かと思わさられる。それでいて、６号艇で出走した４Ｒは、しっかりコースを獲りに行く。レースになれば闘争心のスイッチがしっかり入るのだ。
白井がＳＧを獲ったあと、多くの人が「ひとつ獲ったことでポンポンと獲るようになる」と言っていたものだが、今の白井の立ち居振る舞いを見ていると、それは間違いないことのように思える。後半８Ｒも白井らしさを見せて、予選突破を果たしてくれるだろう。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
