BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――夜の試運転

 8Rを走り終えた平本真之のボートに「試」の艇番が取りつけられた。えっ、まだ走るのか!? 後半のレースを終えれば、たいていはモーターを取り外し、そのままボートは片づけられるもの。だというのに平本のボートはモーターをつけたまま、装着場に置かれたのだった。平本は5回乗りなので、ボーダーが6・00であれば明日1着でも届く見込みはない。それでも、平本はこのままでは終われないとばかりに、調整を挟んで10R発売中に水面へと向かったのである。

 そのとき、隣に新田雄史のボートがあったので、気にはなっていたのである。しかも、整備室で本体を割っていたのでなお、ムムムと思っていたのである。もしかして、新田もまだ走る気なんだろうか……走る気なのであった。10R発売中に本体整備を終えた新田は、ふたたびボートに装着。試運転用の艇番をつけて、水面へと向かったのだ。明日はボーダー6・00なら2着2本の勝負。簡単な勝負駆けではない。今日の出番は4Rだった。それからたっぷり時間を使って整備をし(接触があったレースだったので、その影響もあったかも。、その感触を確かめるために水面に降りた。同期の平本とはにこやかに話していたけれども、その姿は気合の塊である。

 10R発売中に試運転を切り上げたのは、吉田拡郎。出番は2Rだったから、その後の時間を調整と試運転に費やした1日だったということである。やはりボーダーを6・00とするなら、拡郎は明日2走をピンピンでも届かないことになる。平本にしても拡郎にしても、予選突破がどうこう、ではないのだ。もちろん、ボーダーが下がる可能性はあるから、できるだけ得点率を引き上げておくべきというのは常套句みたいなものだが、いずれにしてもまったく折れていない拡郎と平本なのだ。

 同じく2Rに登場し、明日は5着条件の勝負駆けとなる吉田裕平は、決して油断せずに明日を戦うべく、同じように試運転を遅くまで繰り返した。比較的楽な勝負駆けだからといって、まったく緩めたりはしない。もちろん少しでも内の枠番で、という思いもあるにせよ、ただただ万全を期さずにはいられないという性質を、特にトップどころのボートレーサーは有しているわけである。この、どこかヒリヒリしたような感覚が、SGピットのたまらない部分であるのはたしかである。

 と言いつつ、そりゃあ誰だって勝負駆けは気になるのであって、初戦1着のあと5着を並べ、リズムダウンしていた菊地孝平が、9Rを2着で上がってくるとやっぱりテンションは高いわけである。明日は決して楽な勝負駆けにはならなさそうだが、この2着でおおいに望みがつながった。気分が高揚して当然だ。リフトから降りながら、出迎えた後輩たちに向かって大声で何かをまくし立てていた菊地。谷野錬志の顔がふっと緩んで笑顔になったことから、仲間の心をほぐすような言葉だったのだろう。つまり菊地は舌も快調だったというわけである。

 それは10Rを勝った山口剛も同様であった。ニコニコ顔であがってきた山口は、出迎えた高橋竜矢らにやはり何かを語りかけて、それによって高橋は人の良さそうな笑顔を浮かべたのであった。そういえば、菊地は去年のダービー優勝戦1号艇、そして3着。山口は4号艇で2着。1年前、わずかなところで栄光を獲り逃した2人だ。知多の仇を三河で討つべく、二人とも気分を上げて明日の勝負駆けに臨む。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)