いやはや、驚くべき展開となった。単純にすげえとも思うし、ちょっと背筋が寒くもなる。
賞金ランク１位→トライアル初戦でイン発進→差される→２マークで差し返す→第２戦も１号艇を引き当てる→イン発進で差される→今度は２着→第３戦は６号艇を引く
もう多くのファンが気づいていると思うが、我々は同じ流れを住之江で見ているのである。そしてその流れは、第３戦は敗れる→でも優勝戦は１号艇→逃げて優勝！ と続いていく。もちろん山崎智也だ。寺田千恵もこの流れをトレースするのか!?
寺田ももちろん、気づいている。「まあ、そこまでうまくいくものでもないですけどねえ」と言いつつ、しかしなったらスゴいと思っているだろうし、明日の結果はともかく、終着点は同じであってほしいと願っているはずだ。いや、会見では否定していたけど、６号艇を引いた瞬間のテラッチは、たしかに「よしっ」と言ったように聞こえたのだ。そりゃあ１号艇をもう１回引いたほうが嬉しかったに決まっているけれども、智也を意識しての思いがあったのではないかと推察されたのである。いずれにしても、こういうのをフラグが立ったって言うんですかね？ どっちのフラグかは知る由もないが、しかし寺田千恵をめぐる興味深い状況が出来上がったのは間違いない。
と言いつつも、レース後、ピットに引き上げてきた寺田が納得いかないとばかりに首をひねったシーンもまた印象深い。当たり前だが、「智也くんと同じ流れになった」なんて喜んでいるわけがないのだ。さらに、着替えを終えた鎌倉涼を捕まえて、「なんでゼロ台行くのよ～ん」と肩をゆすったりもしていた。テラッチもゼロ台なんだが（笑）、スタートのぞかれて、しかも差されて、相当に悔しかったようだ。これはようするに悔し紛れの祝福で、だから鎌倉も嬉しそうに笑っていた。大先輩が自分を認めてくれたのだと、はっきり感じたのだと思う。
そう、寺田を差したのは鎌倉だ。寺田の祝福は、喜びと同時に、大きな手応えにもなっただろう。また、機力的にも好感触を得た２日目となった。「行き足が良くなっていて、回ってからの舟足もいい」とのことで、これは鎌倉の攻撃力を活かす仕上がりと言っていい。地元住之江の仇を博多で討つ。そんなシーンの現実味がじわじわと増してきている。
10Ｒを勝った三浦永理もとにかく嬉しそうだったぞ。ピットに上がった瞬間の表情はヘルメットの奥に隠れて見えなかったが、リフトからボートを動かし始めてすぐに、長嶋万記と山下友貴がニコニコ顔になっていたのだ。さらに、エンジン吊りを進めながら、池田浩美と鈴木成美もニッコニコになっていく。三浦の表情なのか言葉なのかに、静岡勢が反応したのは明らかだ。そしてそれは、爽快なものだったはずである。
一方で、差された日高逸子は、まあ悔しがること悔しがること。会見場にあらわれ、テーブルに着いた途端に、質問を待たずに嘆き始めたのだ。
「失敗したぁ～～～～～！ 三浦さんのために飛んでいったようなものですね。ショック！ ヘタクソ！」
イン滝川真由子が遅れて、日高が完全に覗くかたちになったスリット。あとは滝川を叩いて抜け出すだけという展開なのだが、滝川の遅れによって「もしかして、私がＦ？」と動揺し、それがハンドルを狂わせることになったようである。百戦錬磨のグレートマザーでも、こんなことがあるのね。勝ち筋が見えていただけに、悔しさはひとしおだ。
会見は日高→三浦の順に行なわれていて、日高の会見が終わると入れ違いで三浦が会場入りしている。すれ違いざま、日高は三浦の尻をポン！ これもさっきのテラッチと鎌倉の絡みと同じ。三浦はこれでさらに勝利の会心を強くしたのか、細い目をさらに細めて、アハハハハと笑ったのだった。
さてさて、ＪＬＣなどで枠番抽選をご覧になった方なら、「？？？」と目を丸くした場面があったと思われる。平高奈菜が明らかに泣いていたのだ。
僕が見たことを書く。ピットに上がって平高は、山川美由紀に頭を下げに行っている。これはもちろん、３周２マークの場面についてだろう。平高が一か八かの切り返しで先マイをはかり、これにより山川を逆転して３番手に浮上している。今回に限らず、こうしたケースでは仕掛けた選手がピットに戻るとすぐに相手のもとに行って頭を下げるもの。選手の間での慣習というか、礼儀のようなものだ。今回は接触はなかったが、ちょっとした接触があった場合でも、同様のシーンが見られる。これは同支部とか先輩後輩とかは関係ない。そこで山川は、ひとしきり平高に言葉を投げたようだ。ようだ、というのは、僕の視界にはハッキリと入っていなかったから。撮影していた池上カメラマンの目撃証言だからである。
僕が見たのは、その直後の平高だ。昨日の６着後とほぼ変わらない表情なのだ。僕から見れば、この逆転３着は、１マークで後手を踏んだことを思えば、ある種の会心だったと思った。３着で歓喜するわけにはいかないが、しかし安堵の思いがあって当然だと考えていたのである。だから、まるで予期せぬ表情を見て、僕は怪訝に思った。同時に、初戦６着の巻き返しに３着では足りないのか、あるいは３着であろうと敗れたことがただただ悔しかったのか、とも考えた。こちらだったら、その勝負根性は凄い。そして、平高のクライマックスＶへの思いの強烈さもうかがえる。その後がなかったら、僕はここにそう書き切っていたかもしれない。
予想外の平高を見たことで、僕は平高の後を追うことにした。カポック脱ぎ場で装備をほどき、そこから出てきたところで、僕は平高の表情がさらに変わっていくのを見た。眉間あたりに手をやって、何かをこらえているような顔つきになったのだ。あれは11年オールスター、尼崎のピット。ＳＧ初出場の平高が、３日目あたりだったか、自分のボートのかたわらで一人、涙にくれているのを見たことがある。あのときの表情に似ていた。
ああ、これは……。枠番抽選会場にあらわれた平高を見て、舟券予想は当たらないのに、この予想は当たってしまったのだと知った。平高のことを誰よりも知っている同期の鎌倉は、平高の表情を見て即座にベンチコートのフードを頭にかけている。同期の泣き顔を周りに見せたくはなかったか。それは明らかに、鎌倉の思いやりであった。しかし、平高は５秒ほどでそれを自ら振り払い、あえて顔を露出させた。それから先は、ＪＬＣなどでご覧になったとおりである。
泣くな、平高奈菜。今日の切り返しは、絶対的に素晴らしい逆転劇である。②－①－③を持っていた人なら「平高、何するんだ」ってことになるかもしれないが、②－①－⑤を持っていた人なら「平高、ありがとう！」と喝采を送っているはずである。どっちも持っておらず、しかも平高本命でどうあっても的中しない僕は、その根性にとにかく痺れた。いや、②－①－⑤を買っていたとしても、僕はその瞬間は自分の的中に快哉を叫ばない。②－①－③を買っていたとしても、やはり鳥肌を立てていただろう。同支部の大先輩が相手でも関係なく、ガチンコで向かっていった平高は最高の勝負師である。あえて「僕は」と限定的にしておくが、僕はこうして選手の気持ちが伝わってくるからこそ、ボートレースを誇るし、舟券を買うのである。平高奈菜は、今後も僕に舟券を買わせる選手でいつづけるだろう。彼女から買おうが買うまいが、彼女のレースの舟券を買う（つまり蹴飛ばすこともある）。ま、明日は肩入れしてふたたび本命にする可能性大ですが（笑）。
念のために付け加えておくと、結果は無念だが、山川も何が悪いというわけではない。②－①－③を持っていた人は愚痴こぼしていいと思うが、陸でのふるまいも含めて、山川を僕は否定はしない。また、もし山川を弾き飛ばす形になって平高が不良航法をとられたとしても、僕は平高の評価を変えない。というより、平高の「思い」に対する評価は、何ら変わることはない。減点されたとかそういうことは関係ない、ボートレーサーの勝負への執念。危険極まりないプレーに対しては否定するが、そうでなければ選手たちの執念を僕は絶対に否定するつもりはない。もちろん、今回の平高には肯定しかない。支持しかないのである。
なんか熱くなっちゃいました（笑）。すみません。とにかく、今日も結局、平高に尽きた、みたいになってしまった。明日は１着勝負になりそうだ。今度はどんなレーサー魂を見せてくれるだろうか。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
