BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――執念

 

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 森高一真、ボートに乗ったまま装着場に登場! って、おい。試運転をしていた森高が、切り上げてピットに戻ってきた、という場面なのだが、普通はボートを降りて自分で押してくるものなのに、森高は操縦席に座ったままなのだ。ということは、誰かがボートを押す役目になっているわけで、これが先輩の重成一人。さらには徳増秀樹も舳先を持って、ボートを引いていた。先輩に何をさせてんだ。

 ただし、取り囲む先輩たちの顔は明るい。それが森高の人柄だ。さらに森高が「あかんわ~」と愚痴をこぼしまくっているため、先輩たちは面白がって森高に絡んでいくのである。11Rの展示準備に向かっていた原田幸哉も足を止めて、森高にちょっかいを出している。なんとも和やかで緩やかな光景となっていたのであった。

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 この場面、続きがあった。森高はモーターを外すと整備室に直行。そのまま整備を始めている。遠目にも確認できたのは、キャリアボデーの交換。それだけではなく、本体も割り始めていて、かなり大掛かりな整備になりそうな様子だった。これが10R発売中のこと。今日は残された時間をすべて使って、整備に励むことになるのだろう。

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 ……と思われたが、違った。10Rのエンジン吊りが終わった頃のこと。重成が森高のボートを整備室に運び込んだ。そのときすでに、森高のボートは係員の方によって洗浄済み。誰もが森高の今日の試運転は終わったものと認識していたのだ。しかし、森高はふたたび水面に出ることを決めた。それを知った重成先輩が、整備に忙しい森高に代わって、ボートを持ってきたのだ。試運転用のピンクの艇旗もつけられ、カポックも重成によって持ち込まれた。森高は整備を終えると、重成先輩がお膳立てしてくれたボートにモーターを乗せて、水面へと向かったのである。

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 僕と池上カメラマンがレンズを向けると、「恥ずかしいから、あんまり撮らんといて」と森高。何が恥ずかしいものか。まるで動いてくれないモーターを、とことん整備して、その確認のため水面に行く、ということを今日の森高は繰り返していたのだ。何としてもパワーアップして、レースで好成績を残す=ファンの舟券に貢献するために、ギリギリの時間まで動いたのである。それも、いったんは切り上げたはずの試運転を再開する、という執念まで見せて。森高の舟券を買うファンにとって、こんなに信頼できる姿はないだろう。それを伝えるためにも、シャッターは押さねばならない。

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 結局、最後の試運転は2周だけだった。もう残された時間が少なかったのだ。それを見守り、ふたたびエンジン吊りに参加した重成先輩に、森高は言った。「明日はやれる気がしてきた」。整備が実った……かもしれないのだ。森高によると、明らかに音が良くなっていた、という。「まあ、相手次第やけどな」と森高が言うとおり、あくまで単走での感触であり、レースで結果に直結するかどうかは、相手の動きにもよるから、断言はできない。しかし、今日の努力はひとまず気配を上向かせた。「一発あるかもしれんで」と笑う森高は、陸の上でもたしかに戦い抜いたのだ。

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「最後の最後まで試運転に行くなんて、新人かと思った」と振ったら、森高はニッカーと笑顔をはじけさせたあと、「新人は今日の整備はできんやろ!」と胸を張った。ちなみに、キャリアボデーを換えてみたらダメで、戻して、さらにスリーブとセットで換えて、ピストンも……とさまざまな部品を口にしていたので、何を交換したのかは明日の直前情報で確認してほしい(複雑すぎて、正確にお伝えする自信がないっす)。今日の森高は、培ってきた自分の引き出しを開けまくって、奮闘したのだ。その姿に敬意を払う。個人的に仲がいいとかそんなことは関係なく、これこそがSGレーサーの姿だと強調しておきたい。

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 もちろん、今日は森高の動きが目立っていたというだけで、他の選手だって同じように戦っている。評判機のひとつである13号機を引きながら結果に結びつけられていない池田浩二も、整備室にこもって、ギアケース調整など、手を尽くしていた。今日は4着に敗れた峰竜太は、12R発売中までハンマーを振るっていた。それもかなり強い調子で。今日の足色に納得がいかなかったのだろう。みっちりと調整をしていた。笠原亮は、12Rの展示準備のギリギリまでプロペラと向き合った。ギリペラといえば辻栄蔵のことをよく書いているが、もちろん辻だけではないのだ。12Rは結果が出なかったけれど、調整に執念を燃やして臨んでいるのだ。

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 もちろん、逆にエンジンが出ていれば、あまりジタバタと動かず、触りたいのをじっと我慢して何もしない、というのも、意味としては同じである。たとえば石野貴之は、整備室で姿は見るものの、大きな調整をしている姿は見えない。これは、動かないことこそが調整、ということでもあるわけである。それぞれが勝つために、さまざまなかたちで奮闘する。SGというのは、ピットの動きひとつとっても、レベルが高く濃密なのだ。

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 さてさて、11Rをモニターで見ていたら、岡崎恭裕が隣にやってきて、モニターを覗き込んだ。1周2マークを6艇が回った後に、溜息ひとつついて去っていく。岡崎がレースを見て溜息つきたくなるような選手は……原田幸哉か!? ニュージェネは出てないし、九州は原田しかいない。その原田は1マークで差し届かずに後方を追走。やっぱり原田か。長崎支部に移籍して2カ月半、原田幸哉はすっかり九州の仲間なのである。

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 そのレース後には、岡崎と篠崎兄弟が原田を囲んで談笑していた。愛知支部時代にはありえなかった光景、とは言い切れないけれども、原田が九州地区の一員になったからこそ自然と生まれる光景ではあるだろう。若き後輩と笑い合う様子は、違和感などまるでありませんでしたよ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)