優勝戦出場インタビューがイベントホールで行なわれている時間帯にピットに入った。選手の気配はあまりない。すでに前半レースのスタート特訓は終わっており、ペラ室に数人、係留ピットに数人いるくらい。むしろJLCや地上波などの放送スタッフの姿のほうが目立っている。
そんなガラリとしたピットでは、篠崎仁志と原田幸哉が話し込んでいた。話の内容はよくわからないが、手ぶりを交えて、昨日のレースを振り返っているような感じだ。ときに苦い顔をしたり、ときに笑ったり。ともに準優11レースで敗れた同士、終わったレースを自分の中で反芻して消化していた。
そうこうしていると、イベントホールからファイナリストたちが帰ってきた。ファンの前でのインタビューが終わったあとは、地上波の優出インタビュー。優勝戦当日の前半はこの手の仕事がいくつかある。
最初に顔を見せた坪井は、いつもどおりの表情。すでにSG慣れしているし、6枠の気楽さもあってか、淡々としている。
坪井の艇はまだ陸に上がっており、ペラもついていなかった。一連のインタビュー仕事を終えてから整備をはじめるのだろう。
つづいて帰ってきたのが前本泰和。平穏にインタビューに受け答えしている。前本の艇も陸の上で、ペラも未装着。まぁ、昼間と優勝戦では水面状況も環境もまったく違う。昨日は「ゾーンが狭い」と語っていたので、この時間から調整をしてもあまり意味がないのだろう。
丸岡正典もいつもどおりの落ち着いた感じ。艇も陸に上がっており、整備もこれから。とはいっても、昨日の時点で「エンジン考えれば100点」と語っていた仕上がりなので、微調整程度で終わるのかも。
辻栄蔵も戻ってきた。辻の艇も陸には上がっていたが、すでに早い時間に試運転を済ませて、それから艇をあげた模様。昨日から「やれることは全部やる」と宣言していおり、「いいエンジンで、伸びの延長線上に出足がある」と語っていた。2コースから勝つ算段をつけるため、調整を施していく。
優勝戦の日になると、マスコミの間で「緊張している」「緊張していない」と、やたらと話題になる峰竜太。私の見立てでは……笑顔がややギコちなく、目はあまり笑っておらず、緊張しているように見えた。が、緊張しているかどうかというのは、結局のとことは本人にしかわからない。いや、正しくは本人にすらわからず、レースが終わってから気づくものだ。
ちなみに峰の艇も陸に上がっていたが、すでにいったん試運転を終えて、係留ピットから上げた模様。昨日のインタビューで、
「ここまできたらプロペラとかではない」
と語っていた峰。気持ちでタイトルを取りに行く。
そして、整備室でエンジンと向き合っていたのが井口佳典。すでにファイナリスト5人の地上波インタビューが終わったことに気付かず、整備室にこもっていた。中尾カメラマンが「(インタビュー)井口さんだけですよ」と声をかけると、
「うそやん!」
と驚いてカメラの前へと向かった。それだけ集中していたのだ。
この時間にエンジンをハズして整備室にいるということは、何か方向性を変えてくる公算が高い。実際その後に、
「ペラを叩き替えます」
と言って、木槌をガンガン振るいペラを叩き出した。おそらく、叩き替えるのならば、伸びに特化したペラにするのか。
優出6選手に、ズバ抜けた伸びを持つ選手は見当たらない。この調整が、優勝戦に波乱が巻き起こるかもしれない。
(TEXT/姫園 PHOTO/中尾)