BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――すんなり

 

f:id:boatrace-g-report:20180102105346j:plain

 9Rが終わって、勝負駆けはかなり状況が鮮明になっていた。8R終了時点で、19位以下からの浮上があるのは笠原亮のみ。そしてその笠原が3着で19位にしか到達できなかった時点で、あとは18位以上から落ちてくる選手がいるかどうか、という勝負になっている。

 その笠原は、結果を非常に悔やんでいた。1マーク、得意の5コースからのまくり差しは先頭に舳先が届いたようにも思われた。しかし、相手が悪かった。寺田祥に対して舳先をかけるだけでは、逆転は望めない。さらに、田村隆信との2番手争いにも敗れ、2着条件の勝負駆けもかなわなかった。「1マークはいいレースができたのに……」。そう、いいレースができたからこそ、悔しさは巨大となる。2日目の6着や昨日の5着、これをもうひとつでも着順を上げていたら、結果論だがこの悔しさはなかった。それを笠原も身に染みて思い知っただろう。次の笠原はきっと、この悔しさを本当の意味で糧にする。

f:id:boatrace-g-report:20180102105403j:plain

 その9Rで予選1位もすんなり決まった。寺田祥だ。得点率9・67には、誰がどうあがいても追いつけない。レース後の寺田には当然、報道陣が声を聞きに集まることになったが、寺田の表情はクールそのものだった。すなわち、普段のテラショーとまったく変わらない。実際のところ、内心がどうなのかは推察しようもないが、この大チャンスに一つも震えていないのならば、SG2節連続で悲願の初Vが見られるだろう。

f:id:boatrace-g-report:20180102105418j:plain

f:id:boatrace-g-report:20180102105430j:plain

 10R以降は、18以内にいる選手のなかから脱落する選手がいるかどうか、が焦点である。10R、3着条件だった茅原悠紀が逃げ切って勝負駆け成功。同じく3着勝負だった長田頼宗、桐生順平が2、3着。外枠勢は18位に届く目がなかったので、まさに勝負駆け勢が上位を独占したことになる。脱落者は出なかったわけだ。勝った茅原の表情は、もちろん力強かった。長田は悔しさと安堵が入り混じったような表情。渾身のまくりが茅原には届かなかったが、しかし充実感もあったように思われた。

f:id:boatrace-g-report:20180102105442j:plain

 これで、脱落者が出て笠原が浮上する可能性はかなり少なくなった。菊地孝平は3着条件だが、なにしろ1号艇である。すんなりなら、大敗はないだろう。辻栄蔵と平本真之は無事故完走で当確で、湯川浩司が5着条件。湯川にしても、カドさえ獲れれば足的にシンガリ負けは考えにくい。それこそ、カドまくりが菊地と大競りになったときの共倒れくらいであろう。毒島誠と今垣光太郎は勝っても18位には届かない。というわけで、9割くらいは、準優勝負駆けの決着はついていたと言っても過言ではなかったのだ。笠原は、自分が浮上するために他人の敗退を願うのを嫌うタイプ。もちろん、浮上できれば嬉しいが、他人の失敗を待つのを良しとはしない。しかも、菊地先輩が1号艇なのだ。その菊地が逃げ切って、湯川も3着で笠原は次点のまま。笠原は「今回はしょうがない」と菊地を祝福している。そしてその菊地は、茅原以上に力のこもった表情を見せていた。公開勝利者インタビューから帰る際にすれ違ったときも、まるでこれからレースを戦う者のような、獰猛な表情なのであった。

f:id:boatrace-g-report:20180102105453j:plain

 このレース、とことん悔しがったのは平本真之だ。結果的に3着以上だったら準優は1号艇だったが、それよりも大敗したこと自体をおおいに悔やんでいた。エンジン吊りが終わった時、腰を折って両手を膝につき、くっそーとうなだれたのだ。それを気遣うように見下ろしたのは新田雄史。平本がどんな気性かを知り尽くしている同期だから、その心の内は手に取るようにわかったことだろう。平本はこうした悔恨を隠そうとしないタイプだが、それが平本の強さの原動力だと思ったりする。こうして吐き出して、リセットして次に向かうのも大事なこと。心はすでに、準優でのリベンジに向けられていると思う。

f:id:boatrace-g-report:20180102105505j:plain

 12Rの選手は全員が勝っても18位に届かないので、11Rで準優18人は完全に出揃った。すっきりした表情に見えたのは前田将太で、11R後に少し話をしたが、間違いなく気分は上々の様子であった。地元SGでの最低ノルマは果たせたわけだが、もちろんこれで満足するような男ではない。

f:id:boatrace-g-report:20180102105516j:plain

 対照的に、池永太はどこか元気がないように見えた。予選序盤を1着2着と好発進しながら、まさかの予選落ち。若松推薦でかけられた期待はおおいに自覚していただけに、最悪の結果に心が晴れないのは当然だろう。

f:id:boatrace-g-report:20180102105527j:plain

 あと、篠崎元志が静かにゲージ擦りをしていたのも印象に残った。帳尻を合わせたといったら失礼になるかもしれないが、決して突き抜け切れない成績のなかで、しっかり予選を突破したのはお見事だったと思う。そのうえで、まるでメンタルを整えるかのように、人っ気の少ない整備室で、穏やかな表情となってゲージと向き合っている。それはむしろ、闘志を高めている姿にも見えたのである。結局地元からは元志か、ということになってもまったく不思議ではなさそうだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)