BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

勝者と敗者の巡礼

12R優勝戦
①守屋美穂(岡山) 15
②平山智加(香川)    20
③細川裕子(愛知)    25
④櫻本あゆみ(東京)19
⑤小野生奈(福岡)   19
⑥水野望美(愛知)    27

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 いやぁ、香川のオナゴは恐ろしいっ!!
 スリット隊形は↑ご覧のとおり。私がもっとも注目していたイン守屋のスタートは、今日もコンマ15と慎重ではあった。これで平山あたりがゼロ台全速だったりしたら危険なタイミングなのだが、外5艇はさらに慎重な20前後。このアドバンテージはでかい。おそらくスタートを最重要ポイントのひとつと考えていたであろう守屋も、この隊形で「第一関門クリア」と思ったはずだ。

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 あとは、しっかり1マークを回れば勝てる!
 と。1マークのかなり手前でチラリ平山の位置を確かめた守屋は、それからじわりと舳先を左に傾けた。平山が動いたのは、まさにその直後だった。それまで(守屋がチラ見するまで)は外へ外へと開き、「差すぞ差すぞ」と見せかけてからのいきなりのフルスロットル!! スタート優勢~平山の位置取りで差しだけを警戒したであろう守屋が落として回った瞬間、その全速のジカまくりはもう守屋を飛び越えていた。守屋の油断と言えばそれまでだが、ここはやはり讃岐の女勝負師の“奇襲”をこそ賞賛するべきだろう。

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 2着に敗れた守屋は単に悔しいのみならず、「自己責任」としてさまざまな感情と思考を心の中で巡らせたはずだ。レースから1時間以上が過ぎた今も。明日もあさっても、しばらくずっと。
 そして、その同質の思いは、平山が3年連続でぶち当たった思いでもある。レディースチャンピオンの優勝戦1号艇で、2011年は3コース田口節子のまくり差しを浴びた(2着)。12年は同朋・山川美由紀の4カドまくりに沈んだ(3着)。翌13年も金田幸子の4カドまくりで3着……「女子王座の1号艇で勝てない平山智加」は当時のファンの間で都市伝説のように語られていた。

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 あれから長期休養なども挟みつつ、足掛け10年での女王戴冠。あえてドラマチックな方向に持っていくなら、「3年間も1号艇で敗れ続けて蓄積された思いが大きな経験値となって、今日の奇襲~レディチャン初優勝へと導いた」などと解釈する手もあるだろう。“リベンジ”を果たした1号艇が岡山支部というのは、単なる偶然でしかないけれど(笑)。

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 因果応報というか輪廻転生というか、1号艇で敗れた守屋はさまざまな思いを血肉として来年もこの舞台に立つだろう。再び1号艇で平山と同じ屈辱を浴びるかも知れないし、1年で今日の無念を晴らすかも知れない。もはやそれだけの実力を兼ね備えていることは、全国のファンの誰もが認めるところ。平山が3年連続で敗れたとき、私は「平山にとって女子王座はさして大きな意味はなく、もっと大きな舞台で輝くべき存在だ」みたいなことを書いた記憶がある。今日の守屋にも、同じような思いを抱いた。もっと大きな舞台で屈強な男どもと互角に渡り合いながら、隙あらば今日のリベンジを果たせばいい。

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 うん、ふたりだけの話に終始したが、本当にそんなシリーズだったと思う。
――シリーズを通じて、もっとも強いレースを魅せ続けたのは守屋美穂だった。だが今日の12Rだけは平山智加のほうが強かった。
 本当にそんなシリーズだった。(photos/チャーリー池上、text/畠山)