BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――【クライマックス】さらなる願い

f:id:boatrace-g-report:20201231184112j:plain

 先頭でゴールした平高奈菜が、一人だけ本番のピットへ。ボートを降り、装着場へと続く架け橋を登ってくる。登り切って、装着場に到達したとき、平高は微笑を浮かべながら大きく息を吐いた。それは脱力感、あるいは疲労感にも見え、だとするなら1号艇を活かし切ったことへの安堵の表現だったか。一方で、それは「ようやくタイトルを手にした」という感慨を噛みしめている姿にも見えた。いずれにしても、やり切ったという思いは浮かんでいたはずだ。表彰式などで「実感はまだない」とも語っていた平高だが、意識せずとも、たしかにGⅠ優勝という栄誉を胸いっぱいに感じ取っていたはずだ。

f:id:boatrace-g-report:20201231184136j:plain

 平高は勝利者インタビューのために装着場へと上がったのだが、そのカメラの前で待っている間、戦ったライバルたちが次々と、控室へ戻るためその近くを通り過ぎている。真っ先にやって来たのは平山智加。悔しさがないはずがないが、かわいい後輩の初タイトルだ。平高の姿を見た瞬間、さーっと目元がほころんだ。そして、平高と笑顔の交歓。自分の勝利以外では、最も望んだ結果だったのだろう。

f:id:boatrace-g-report:20201231184159j:plain

 遠藤エミ、大山千広が立て続けに通過。やはり平高に祝福を送っている。その直前、遠藤は大山を追い越すかたちとなっているが、そのとき大山に「ゴメン」と声をかけている。おそらく前付けでコースを獲ったことに対してだろう。そしてその直後、穏やかだった表情が一瞬だけ、険しくなった。前付け実らず敗れた悔恨がふっとよぎったか。

f:id:boatrace-g-report:20201231184244j:plain

f:id:boatrace-g-report:20201231184304j:plain

 その後に通過したのが小野生奈、守屋美穂は、平高に気づいていたかどうかわからない。ふたりともが、平高には一瞥もくれずに通り過ぎている。小野は顔を引きつらせながら。守屋は視線を伏せながら。その姿は、平高への祝福よりも勝てなかった悔しさが、そのときは、大きかったように見えたのだった。平高がすぐそこにいたのに気づいていなかったとしても、そう、気づく余裕がないほどに悔しかった。

f:id:boatrace-g-report:20201231184343j:plain

 今日は平常心で過ごせた、と平高は言った。遠藤が前付けに来るということで、テンションが下がったそうだ。やっぱり自分はタイトルを獲る星ではないのか。かつてそう思ったことがあって、その思いがまたよみがえった。それがプレッシャーを消したようだ。たしかに、レース直前でも平高に妙な雰囲気は少しも感じられなかった。展示から戻ってきたときには、緊張感ある凛々しい表情が見えたが、それはなんともカッコ良く、重圧に苦悶している者の様子ではなかった。

f:id:boatrace-g-report:20201231184419j:plain

「もっとSGで活躍したい」
 表彰式でも記者会見でも平高はそう言った。ならば、プレッシャーがなかったもうひとつの理由を、「タイトルを獲ったとしても、それは通過点」という意識だったと、僕は勝手に考えたい。もちろんタイトルは欲しい。だが、そこが最終地点ではない。その先にある、SGというボートレース最高峰の舞台(混合GⅠでもいい)。平高の願うものは、間違いなくそこにあるはずなのだ。
 今年のオールスターで、平高は準優に進んだ。それは自信になったというが、しかし打ちのめされもした。2番手争いを演じながら、男子のSGレーサーに競り負けた。そのとき平高は、「女子戦ばかり走っていたら、あの人たちには勝てない。だからもっと周年記念に出たい」と言ってきたのだ。さらに「女子をもっと周年に斡旋してほしいって、雑誌で書いてくださいよ」と言ってきたのだが…………BOATBoyではそれをさんざん書いてきたし、もっと書いてもよかったのだが、BOATBoyは休刊してしまった(泣笑)。というわけで、リクエストには応えられなかったわけだが、しかし僕は我が意を得たりと思ったものだ。

f:id:boatrace-g-report:20201231184508j:plain

 平高のような意識の女子選手がいて(他にももちろんいる)、本当に周年記念などで揉まれていけば、きっといつか大きな大きな夢が実現する。きっと、世の中に誇れる出来事が実現するだろう。会見でも、今のところSGで活躍する自信はまだないという平高だが、環境が整えばそこで獅子奮迅の活躍を見せられるはずだ。それをおおいに期待したいし、平高の思いは実に頼もしい。
 その意味で、僕はタイトルを手にしたことの意味はまた、大きいものだと思っている。まあ、いつか獲っていたはずだとも思うが、大きなケガを経験し、それがきっかけのリズムダウンも経験した2020年に成し遂げたことにはきっと意味がある。

f:id:boatrace-g-report:20201231184528j:plain

 結局最後まで湿っぽい瞬間がまったくなかった平高。歓喜の涙は望むべき大舞台にとっておいてもらうとしよう。おめでとう、平高奈菜。さらなる大仕事を果たす時が来るのを待ってます!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)

※平高はGⅠ初制覇ですが、水神祭はありませんでした。今日は寒いからな~。