BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

暴走、止まず。

12R優勝戦
①遠藤エミ(滋賀)    10
②櫻本あゆみ(東京)12
③高田ひかる(三重)25
④山川美由紀(香川)18
⑤渡邉優美(福岡)    14
⑥西橋奈未(福井)    26

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――逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……
 エヴァ初号機パイロット・碇シンジの口癖を、まったく別の意味&立ち位置で念仏のように唱えた私だったが、その祈りはスリットラインのはるか手前で潰えた。
 浜名湖・初号機パイロット遠藤エミ、怒涛の準パーフェクトV!!
 ①121111①。シリーズを終えてみれば、ただただ圧倒的な強さだった。うん、その経緯を振り返るまでもなく、三島敬一郎のトップ指名・初号機を引き当てた時点で「暴走モード」に突入したとお伝えしていいだろう。

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 優勝戦の1マークは、圧勝と呼べるものではなかった。9Rからいきなり強いホーム追い風が吹き荒れ、2コース櫻本の差しが破壊力を増幅。バック直線では「あわや舳先が食い込むか?」というテイルトゥノーズの接戦に持ち込まれた。

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 だが、その怖い怖い舳先は、スリット裏で勢いを失う。いや、エミ初号機の行き足が、櫻本のそれを凌駕したのだ。敵の舳先さえ封じてしまえば、もはや逆転される人機ではない。シンクロ率∞の勢いで2マークを先取りするや、あとは影をも踏ませぬ独走態勢に持ち込んだ。

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 今シリーズは守屋美穂とともにV戦線を並走。残念ながら両雄の直接対決がないまま頂点に立ったエミだが、私の思いは他にある。
 もしも、この舞台が浜名湖のSGだったら、エミ初号機はどこまで台頭できたか。あるいは、優勝戦の勝ち負けまで持ち込めたのではないか。

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 そんなことを思わせるほど、人機一体の素晴らしい暴走モードだった。もちろん、この感想には否定的なファンもおられるだろうが、近い将来、そんなシチュエーションが実現することを楽しみにしておこう。

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 敗者についても書く。節間に27歳の誕生日を迎えた高田ひかるは、シリーズ最終盤を大いに盛り上げた。特に、たまたま同じ誕生日の私は、女性随一のまくり怪獣の挙動に一喜一憂しながら最後まで「真夏の大冒険・還暦ver」を楽しませてもらった。

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 いや、大げさでもなんでもなく、予選突破が絶望的になって肩を起こし、2コースジカまくりで奇跡的に準優に滑り込み、「6号艇で思ったほど伸びないから苦しいか」と諦めかけたら豪快なアウト一撃まくりでファイナル3号艇をGET……舟券も含めて、この4日間は今までにないほどスリリングな冒険活劇だった。

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 結局は「戦車に竹槍」で最強の初号機パイロットに完敗したが、私はこの冒険の日々は単なる偶然の産物ではないと確信している。女子では高田ひかる、男子では菅章哉、藤山翔大、下出卓矢などの「まくり怪獣」が暴れまくっている昨今。彼らの超伸び型ペラや3カド攻撃はじわじわと全国の若手選手に浸透し、強いA1級のインコースを一撃で攻め潰したり、大競りとなって超人気薄選手が10万舟の立役者となったり、そんな空中戦が明らかに増えている。

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 それらの“奇襲”はまだまだSGでは通用しない(ピンロク戦績が多いから出場するに至らない)と見られがちだが、そう遠くない将来に彼らの誰かしらが最高の舞台で大本命を脅かす日が来る。今節、女子の大舞台でのひかるの「ド派手な暗躍」は、そんなムーブメントの魁、前兆ではないか、などと思った次第だ。年々インコースが呆れるほど強くなり、シード番組がそれを露骨に後押しする時代であっても、穴党の私は1ミリたりともクレームをつけるつもりはない。その安穏たる趨勢を、一撃で蹴散らしてくれる戦士が増えているのだから。
 大冒険は、真夏が過ぎても終わらない。(photos/シギー中尾、text/畠山)