BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――激戦セミファイナル!

●10R

 村松修二が1マークを先に回って先頭に立った瞬間、スタンドからは大きな拍手が沸き起こった。ふとスタンドに目を向けると、2マーク寄りの先端あたりに陣取ったファンたちがジャンプしているのが見えた。
 地元期待の若手がSG初優出!
 彼らのなかには村松に票を投じた者もいただろう。ファンが地元オールスターに送り出した期待の星が、ファイナルに駒を進めた。そのときたしかに、村松はファンの思いを背に走っていた。
 印象的だったのは、レース後の村松はいっさい笑顔を見せなかったことだ。山口剛らがピットにあがってきた村松に拍手を送っても、瞳は力強さをたたえたまま。モーター洗浄の間にヘルメットを脱いでいるのだが、頬もキュッと締まったままなのだった。やがて戦った5人のライバルたちに頭を下げて回る。そのときも真摯な表情を崩さず、唇もキシリと閉じられていた。カポック脱ぎ場でも、その様子は同様。

 優出に浮かれず。満足せず。もちろん好材料だとは思うのだが、高揚感がまったくと言っていいほど感じられなかったのは、少々意外であった。あ、写真は優出した村松を称える114期同期トリオです!

 スタンドが次に沸いたのは、前本泰和が2番手に上がったときだ。地元ワンツー! いまや広島支部のエース格と言っていい前本が、ついに選ばれたオールスターの舞台で、それも宮島で、優出を果たす! スタンドに目をやると、やはり幾人かのファンがジャンプしているのだった。
 しかし、地元ファンのテンションががくんと下がった。3周1マーク、前本が逆転されてしまったのだ。3着で優出ならず。勝っても負けても感情をあらわにするタイプではない前本だけに、やはりレース後は淡々としているように見えたのだけれども、内心はそんな簡単なものではないだろう。ただ優出を逃したのではなく、地元SGの優出を逃したのだから。

 逆転したのは石野貴之だ。ピットにあがってきた石野の目が、ヘルメットの奥で細くなっていた。また、西山貴浩と言葉を交わしたときには、くしゃくしゃっとした顔で笑みを浮かべていた。してやったりの優出、ということだろう。明日の仕上げについては、「相手と枠を見て」を強調していた。10R後の記者会見、まだ11Rと12Rが終わっていない時点では語りにくいこともある。ただ、「パンチはつけようと思えばつけられると思う」とも言っており、相手と枠次第でその決断をしたときが楽しみだ。随一の勝負強さを誇る石野が、どんな勝負手を放ってくるか。

●11R

 ピットのテンションが上がったのは、實森美祐が5コースから内を締めにいったときだ。さらに内を叩いてインの白井に迫る態勢となったとき、誰もが前のめりになってモニターを見つめた。しかし、勢いがつきすぎたのが、艇は何度かバウンドしてしまう。大金星ならず。レース後は菊地孝平ら締めた相手に対して詫びて回ってもいたが、SG準優という舞台で最高の経験ができたと言うべきだろう。

 実は、實森が締めにいったのは、6コースから平高奈菜が伸びていったのがひとつの要因だ。平高がせっついたように軽く締め、パワーもあって粘った實森が勢いをもらいながら絞めていった格好だ。そして、平高はこの展開を見事に捉えた! 2番手に浮上して、女子4人目のSG優出! クラシックで遠藤エミが大快挙を果たして、まるで堰を切ったように平高が続いた。もう女子の優出は特別なことでも何でもなくなった、と思う。平高の優出がそれを決定的なものにしたのだ。
 レース後はとにかくゴキゲン! こんなにすっきりした顔であがってきたのを見るのは久しぶりなような気がする。選手仲間から祝福の言葉をかけられれば、とびきりのスマイル! 記者会見でも笑顔を振りまいて、時にジョークを飛ばして盛り上げてもいた。今日の伸びには手応えを感じている模様で、外枠に入る明日もおおいに見せ場を作る可能性はありそうだぞ。

 逃げ切った白井英治は、レース後は淡々としたもの。勝っても負けても眉間にシワを寄せて引き上げていくのは、まあいつも通りである。ただ、足的にはまだまだ課題はありそうで、会見で「足的に◎がつくところはありますか?」と聞かれて「オールスターとの相性」と応えて笑わせている。これで5年連続優出です。というか、足じゃないよ。ようするに、威張れる足はないということだ。優勝戦でどんな仕上げをするのか。整備もあるかもしれず、明日の朝の様子が気になるところ。

●12R

 レース前の様子からは、磯部誠が予選トップ通過→準優1号艇の重圧をどう受け止めているのかは、正直よくわからなかった。ありていに言って、少し太々しい雰囲気がある男で、それが彼の魅力。そして、そうした振る舞いが準優前に消えていたというわけではなかった。しかし、心なしか、顔つきが少し違うようにも見える。池上カメラマンは「レンズを向けると、緊張してませんよ、という素振りを見せてる感じで、それってどうなんでしょうねえ……」とむしろ異変を感じ取っていたようだった。
 仮に緊張していたとして、それが結果につながったのかと言えば微妙なところだ。インからコンマ13というスタートは、決してミススタートではない。それを上回るスタートを決められ、しかも中へこみの隊形になっており、このことのほうが敗因としては大きいだろう。足的にも、伸び返すだけのパワーはなかったこともある。

 レース後の磯部は完全に脱力した様子だった。ボート洗浄の動きは弱弱しくスローモー。カポック脱ぎ場へ向かう足取りは重く、遅い。真っ先に洗浄の場からは離れたのに、伸びがまるでないから、遅れてカポック脱ぎ場に向かった選手たちに次々と追い抜かれていた。絶好のチャンスを逃してしまった、悔恨だったり自身の不足だったり、中へこみの隊形となった不運だったり、さまざまなものに打ちのめされているようにすら見えていた。
 リベンジするためにも、次の機会をいち早く作れ、もぎ取れ。頑張れ!

 磯部を沈めたのは、元同支部の先輩である原田幸哉だった。コンマ08のトップスタートを決めて、へこんだ2、3コースを叩いてまくり一撃! これですよ、これ。かつての原田幸哉といえば、ここ一番でスタートを踏み込んで一気にまくるのが定番だった。若い頃の原田幸哉を思い出しましたよ!
 原田はもちろん、仲間たちのテンションもまた高かった。ガッツポーズであがってきた原田に、九州地区や菊地孝平らが派手に祝福する。原田も2着の篠崎元志とガッチリ握手を交わすなど、かなり気持ちが弾んでいる様子であった。白井英治には「ゲージを擦ってるだけのことはあったね~」と仕上がりをも称えられて、ニッカリと笑みを返した。白井にとって、優勝戦の最大のライバルは原田になるかも!?

 篠崎元志が2着。原田と握手を交わしていたのはいま書いたとおりだが、これは原田に望まれたもの。それ以外は淡々とした振る舞いだが、表情の力強さといったら! 元志も30代半ばとなり、若きイケメンレーサーも永井彪也をはじめ登場しているが、やっぱりこの男はカッコいいっすね。特に、好結果を出した時のこの男は。SG制覇からはしばらく遠ざかっているだけに、明日はさらにイケメンな表情を見せたいところ。元志ファンの皆さん、エールを!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)