BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――強風下の奮闘

 風は昨日よりも一段と強まっている。波は昨日より高いように見えるし、スタンドからピットへ向かって歩いていると胸から下げた取材章が激しく首に巻き付いていく。ちなみに、スタンドの記者席=ピットの距離は、おそらくここ唐津が最も遠い。取材章が首に巻き付くと苦しいので、歩いている間に何度も何度も元に戻すハメになったのだった。
「なんでこんなに風強いんですか?」
 昨日の12マンシュウの立役者・久田敏之が尋ねてくる。えーと、私に聞かれても(笑)。気象予報士の資格でも持っていたら立ちどころに答えられるんですけどね。丸野一樹も「昨日より風強くないですか?」と尋ねてきたが、それについては「YES」と答えられた。いずれにしても、選手たちにとってこの強風は大きな関心事である。

 そうは言っても、風が強いから走らない、というわけにはいかないのであって、この風(や気温や湿度や気圧)に合わせての調整を強いられるわけである。レースでももちろん、対策をしなければならない。試運転をしていた山崎郡がボートを引き上げ、大急ぎでギアケースを外した。何か感じるところがあったのだろう、猛然とギアケース調整に取り掛かり、あっと言う間に調整を終えると、装着し、また大急ぎで水面へと戻っていくのであった。1分1秒も無駄にできない、という動きは、まさにこの強風のもとでの調整がいかに急務かを物語っていた。

 この風はやはりレースに影響するもので、特に強い追い風を背中から受けることになる2マークでは乗りにくそうにしている選手も見かけるわけである。2Rでは、2番手追走の今垣光太郎が大きく流れ、坪井康晴に逆転を許している。今垣は諦めずに取り返しにいったが、やや深追い気味となったか、羽野直也に3番手逆転も許してしまった。レース後のやるせなさそうな表情からは、レースがなかなか難しいものになっていることが伝わってくる。

 その2Rでは平高奈菜がスタートで大きく後手を踏んでしまった。コンマ83は、平高にしてはありえない数字だ。やはり強い向かい風に気を取られた部分は大きかっただろう。レース後の平高は、呆然というのか、信じがたいことが起きたというのか、実に複雑な苦笑を浮かべていた。悔しさを通り越した別の感情というべきだろうか。もちろん、後悔は大きかったはずで、レース後は速攻でペラ調整に向かっている。ようするに、今日はなかなか過酷な環境で選手は奮闘せざるをえないということだ。

 それにしても、今節は女子たちが苦戦を強いられている。クラシックで遠藤エミが勝ち、オールスターで平高が優出、いい流れが来ていたかと思われたが、今回は軒並み不本意な成績を並べてしまっている。1Rで遠藤は3着争いに加わりながらも4着に敗れた。7Rを控えてはいたものの、レース後は瞬く間にふたたび水面に降りていっており、リズムをなんとか変えようとしているように見えた。そう、成績は一息でも、決して勝負を投げてはいないのである。

 1Rでイン戦を取りこぼした平山智加にしても、エンジン吊りの際に「試」のプレートを付けた。この荒れ水面に怯むことなく、試運転を続けてリズムを上げようと画策しているのだ。守屋美穂も、ほとんどプロペラ調整所の主と化していて、レース前はもちろん、レース後もかなり長い間、ペラと向き合っている。もちろん今日もペラ調整と試運転に励んでおり、一矢報いんと必死なのだ。それらが報われて、今節中のどこかで意地の大穴を叩き出してくれることを期待します!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)