BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 極私的回顧

シーナ&ロケッツ2号、完成!

12R優勝戦
①椎名 豊(群馬)11
②稲田浩二(兵庫)16
③丸岡正典(大阪)27
④太田和美(大阪)17
⑤桐生順平(埼玉)14
⑥片岡雅裕(香川)14

 群馬の、いや艇界の至宝・山崎智也が水面を去ったと思いきや、瞬く間にその弟弟子がSGの頂点を揺るがした。椎名豊、33歳。

 いざ実戦については、完璧すぎて語るべき言葉があまり見当たらない。スタートは準優のコンマ08に続いて理想的なコンマ11、トップタイミング。そこからぐんぐん出て行く2号機の二の足。1マークをくるり回り、肉薄する稲田をスーーッと突き放すレース足(稲田の足も今日がいちばん光っていたが)。
 つまりは、SG初優出しかも1号艇という“修羅場”での緊張感を、微塵も感じさせない完勝劇だった。椎名と話したことはないが、心臓に毛が生えた男なのかも知れない。

              ★

 まったく面識がないながら、マイページの「お好みレーサー」に椎名豊を招き入れたのは2年ほど前のこと。どこかしらのレース場で、スリット同体の4カドから強引果敢に絞めまくる姿にぞっこん惚れ込んだ。あれから、椎名の豪快かつ激辛な絞めまくりを何度見たことか。いつしか私は、彼の必殺技を「シーナ&ロケッツ砲」と呼ぶようになった。時に500倍を超える配当を頂戴しながら、「まくり怪獣」椎名豊への愛着はどんどん深まっていった。

 相棒の2号機についても少々。全国の伸びーーーるモーターだけを探し続けている私が、「おっ!?」と小さく唸ったのは5月の頭。尼崎の山口高志の伸び足がキラリ輝いて見えた。それが初下ろしから3節目の2号機で、その次に乗った若狭奈美子の伸び足ときたらもう!

 この時点で「オーシャンカップは2号機と舟券心中する」と決め、いざ尼崎に乗り込んだら大好物のまくり怪獣が引き当てたわけだ。
「ベストカップルやん!」
 私は手放しで喜んだが、この時点で「優勝」などとは1ミリたりとも思っていない。
――節間にセンター筋から2、3本の豪快なまくりを決めて、俺に特大の万舟をプレゼントしてくれよ、椎名クン!
 そんなレベル。で、正直なところ、初日の椎名コメントを読んで、私はいささか失望感を抱いたものだった。
「伸びはいいけど、SGは伸びだけでは通用しませんから、無理をしてまで伸びを生かそうとは思いません」
 ってな感じ。もちろん、気持ちは分かるが私の感想は「いっぱしのSG常連みたいなセリフは吐かず、椎名は椎名らしく伸びを生かしてガンガンまくってくれよーー><」

 そうこうしていたら、マジで2号機らしい一撃必殺のパンチ力は徐々に削ぎ落とされ、代わって出足系統もしっかりした強力なバランス型マシーンへと変貌していった。そして、どんどん予選得点を伸ばし、あれよあれよのトップ当選ってあなた。初日のコメントは、実に高いレベルで正鵠を射ていたわけだ。もはや椎名は、余分な伸び足なんぞまったく必要のない成績=枠番を勝ち取っていた。そして今日……ゴール直後に豪快すぎるガッツポーズ!! 初日あたりに心の中でナンクセを付けた私は、もちろん「ぐぅ」の音も出ない。椎名豊が2号機をSGの頂点に相応しいマシーンに育て上げ、2号機が椎名豊をSGの頂点まで押し上げた。

「終わったばかりで今はまだなんにも見えてないですけど、きっと、もうすぐ新しい景色が見えると思います」

 表彰式でのこの素敵な言葉を、私はちょっぴり寂しい気持ちで聞いていた。新しい景色。それはきっと、やんちゃな「まくり怪獣」が見る景色とは、まるで違う光を放つのだろう。そして、椎名本人はまだ気づいていないけれど、この一週間で彼はもう新しい景色を見ているのだよ。自分のマナコで。
 少年、三日会わざれば、刮目して見よ。
 おめでとう、シーナ! 最後に、去年の月刊『BOATBoy』に私が寄稿した、妄想たっぷりの原稿を添えておこう。
                ★
FILE・№2021・16/YUTAKA・SHIINA
『神格化したロケットパンチャー』
宇宙胞子怪獣・椎名 豊
①164メートル ②51.5万トン ③群馬 ④群馬 ⑤2・3・4・6コース ⑥シーナ&ロケッツ砲

 群馬県太田市近郊の巨大なシイタケ原木から、にょきにょきと生え出した恐るべき宇宙胞子怪獣だ。地上に舞い降りてからは、兄弟子の『元祖イケメン超獣』山崎智也(※註/電撃引退)の背中を見つめながら超攻撃的なまくり戦法を取得。同期の『艇界のメドゥーサ』高田ひかるほど伸び型に特化することは稀だが、スタート同体からでも強引に絞めまくるため、敵に与えるダメージはメガトン級に及ぶ。「まくりながら猛毒の胞子をまき散らし、敵を半狂乱にさせる」という未確認の噂も流れている(笑)。
 我々MKS(まくり怪獣捜索隊)が特に惚れ込んでいる習性は、「たとえ自分のまくりがブロックされても、徹底的に握り倒して外の選手を生かす」という献身的な特攻精神だ。今年の代表作は2021年5月12日、徳山周年記念で2コースからスタート突出のジカまくり。その猛攻は激しい追い風で真横に流れたが、超人気薄のB級レーサー木下雄介のマーク差しを呼び込んで3連単523倍の大穴を演出した。まくると決めたら「誰かに差されるかも?」なんてセコイことは一切考えず、己の本能のままに猪突猛進にまくりきる。風に吹かれて自由奔放に飛び交う胞子のような性質は、多くの大穴ファンに愛されている。
 また、強引なまくりがブロックされてもぶん流れても、鬼気迫る高速ターンでぐんぐん前を追い上げる特性も見逃せない。21年7月2日、丸亀海戦ファイナルでは6コースから攻めきれなかったものの、凄まじい猛追で大逆転の優勝。この347倍の穴配当と、先の523倍を両方ともGETした畠山隊長は、もはや「椎名教」の信者と化している。
――椎名さまの穢れなき、そして献身的な絞めまくりは、イエス・キリストより尊いのです。椎名さまは大穴党の救世主、メシアなのです。(『畠山の黙示録』より)
 21年5月24日の大村GⅡ誕生祭ではじめて記念の頂点に立ち、22年の大村SGクラシックの権利を取得した椎名さま。この宇宙胞子怪獣が、SGの大舞台でどれだけ正義の味方(インコース)を薙ぎ倒してくれるのか。我々MKSはこの日を「椎名ロケッツ降誕祭」と銘打ち、首を長くして待ち続けている。

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 そう、まさに今日=2022年7月24日を「椎名ロケッツ2号降誕祭」と命名してしまおう(笑)。これからも、時々でいいから豪快な絞めまくりを魅せておくれよ、シーナ君!(photos/シギー中尾、text/畠山)