BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――タイトルホルダー

 堂々たるイン逃げ! SGにも数多く出場し、女子トップクラスの一人と誰もが認めながら、これまでタイトルとは縁がなかった長嶋万記が、完勝で勲章を手にした。ついに! タイトルホルダーとなった!

 もちろん長嶋自身も感慨深いものはあるだろうが、むしろファンや我々のほうがその点に関しては前のめりかもしれない。会見で長嶋は「ひとつひとつのレース。タイトルということにはあまりこだわらなくなった」と、これまで歩んできたレーサーロードをふまえて、そう思うようになったという。無冠の女王がついに念願のタイトルを獲った! と我々は思いたいし、ハッキリ言って僕はそう書くことを宣言するが、しかしその点について長嶋は恬淡とした様子のレース後なのであった。

 だから当然、涙は見えなかった。山下友貴、川井萌、刑部亜里紗の静岡支部勢が笑顔と拍手とバンザイで長嶋を出迎えた。仲のいい松本晶恵もその輪の中にいた。長嶋は、後輩たちの祝福に応えて、ただただ笑っていた。もちろん、心から嬉しそうに。長嶋の言葉を聞いてしまうと、それがタイトルを手にした喜びなのか、ひとつのレースを勝ち切った喜びなのか、判然としなくなりはするわけだが、しかし1号艇で優勝したということの特別性は感じていただろう。通常のレース後に比べれば、当たり前だが、ぐっと笑顔の濃さは深かったのである。

 敗れた5人たちもまた、どこか淡々としているように見えたのは気のせいだろうか。長嶋はトップスタートから逃げ切ったわけだが、田口節子のまくり差しがちょっと迫っているように見えた以外は、誰も長嶋を脅かすことはできなかった。高田ひかるもそこまでは伸びなかったし、ダッシュ勢も攻め筋を見つけられなかった。優勝を逃して悔しくないわけはないが、しかしここまでがっちりと逃げられれば、レース直後は落胆よりも諦めの境地のほうが大きいだろうか。

 むしろ、カポックを脱ぎながらレースを振り返り合うときには、笑顔も浮かんでいたりした。おそらくスタートについて話し合っていたのだと思うが、宇野弥生が「うそーっ!?」と叫んで、苦笑いを浮かべる。右横風が強く吹いていて、スタートは難しかっただろう。今日は複数のフライングもあったし、気を遣った部分もあったと思う。そこでスタートを振り返れば、やはり笑みも浮かんでしまうのは理解できる気がする。

 そしてまた、やや深読みになってしまうのだが、GⅡというグレードもそうさせる部分はあるだろうか。女子レーサーにとって、やはり絶対的な目標はレディースチャンピオンとクイーンズクライマックス(トップクラスにはSGや混合GⅠもあるとして)。GⅡにはレディースチャレンジカップもあるけれども、これはクイクラに続くレースだ。その意味では、女子4大レースのなかでもレディースオールスターはやや位置づけが異なる。もちろんタイトルはタイトルだが、後発レースということもあってお祭り的要素が濃いのかもしれない。

 そして、長嶋万記がタイトルを手にした姿を目の当たりにしたのは実に嬉しいのだが、ここで満足してもらったら困るという思いも、僕のなかに生じたのだった。そう、やはり長嶋万記がレディースチャンピオンを勝つところを見たい。クイーンズクライマックスを勝ってティアラを戴冠するところを見たい。女子トップの一人であるからこそ、目指すところはそこであるべきだとも思うわけである。もちろん、その先でもいい。何年も前に、彼女から本気でSGの頂を目指すと聞かされた。だから、今夜タイトルホルダーに名を連ねたことは、長嶋万記にとっては通過点でなければならないだろう。

 それでも、だ。長嶋万記、おめでとう!“本紙予想”を見ていただければわかる通り、僕は長嶋の舟券を一枚も買っていないのだけれども(万記ちゃん、ごめんなさい!)、しかしそんなことはすっかり忘れて、僕は心躍らせながら逃げた白いカポックを見つめました。おめでとう!(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)