BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――全員SGウィナー

●9R

 スリットを超えた瞬間に、ピットには選手たちの「あぁぁぁっ!」という声が響いている。選手たちには、勇み足がわかったのだろう。中岡正彦がコンマ01のフライング。5カドから一気に内を叩いて先頭に躍り出たが、それは幻の勝利となる。
 先月下旬に発表があった、スタート事故の罰則強化。折しも、今月がその適用開始。GⅠ準優勝戦のフライングは、6カ月のGⅠ出場停止となっている。中岡は年内のGⅠを棒に振ることになった。選手たちの悲鳴、そして中岡がピットに戻ってからの沈痛は、重くなった罰則の分、さらに痛々しさを増していたような気がする。

 それもあってか、勝った中澤和志も喜びをあらわにするようなことはなかった。出迎えた仲間たちも同様だ。もともとそこまで感情を表に出すようなタイプではないが、それでも実に淡々としたレース後だったように見えた。6コースからの勝利とはいえ、やはり「恵まれ」で喜ぶわけにはいかないだろう。ちなみに、会見での第一声は「おこぼれですみません」だった(笑)。

 2着の瓜生正義もまた、会見では「Fがあって残念」とまず口にしている。選手班長として、また選手会会長としても、この事態に思いが至るのは致し方ないところだ。そして、1号艇で敗れた痛恨、それでも優出は果たした安堵、複雑な思いがあったことだろう。江口晃生の前付けは想定済み。その江口とレース後、ずいぶん長く話し込んでいたのは印象的だった。どうやらスタートも含めての、レースの感想戦のようだった。

 3着の松井繁はサバサバとした様子。展示6コース、本番は3コーススローで勝負に出て、中岡に叩かれながらも3番手となり、江口との競り合いも制した。機力的に苦しい中で、また進入から簡単ではないレースで、最善を尽くすことはできたという思いがあっただろうか。「頑張った、な?」という声も聞こえてきて、それは王者の本音だっただろう。この結果は結果として、またいつも通り淡々と戦いを続けていく王者である。

●10R

 前のレースと比べれば、かなり淡々としたレース後だった。レース展開も結果もおおむね順当。ざわめきが起きにくかったのは当然といったところ。
 濱野谷憲吾もほぼ危なげない逃げ切りで、粛々とピットに戻ってきている。むしろ出迎えた東京支部の面々のほうがテンションが高めのように見えた。記者会見でも感情の起伏はうかがえず、実に自然体なのであった。

 魚谷智之も同様。ただ、道中で濱野谷との差を詰める場面もあるなど、足の良さを随所に感じさせるレースだっただけに、その部分への満足感はうかがえた。魚谷が会見で曰く「今日、初めて芯を食った」。会心の仕上がりだったのだ。1マークでは握った吉川元浩の引き波にハマりながらも、しっかりと前に押していっただけに、この足をキープできれば優勝戦も怖い存在だ。

 そう、吉川は一瞬、少なくとも魚谷を出し抜いたと感じたのではなかったか。伸びる平尾崇典が4カドで、畠山をはじめ注目した方は多かったと思うのだが、吉川は平尾を前に出さず、自身が渾身の握りマイで攻めた。それはかなりいいタイミングで決まったと見えていたのだ。しかし濱野谷には届かず、魚谷にも競り負け、悔いが残ったかはともかく、悔しさを味わったのは間違いないだろう。2マークは握って外マイに出たが、魚谷もまた内から迫る平尾を握って交わしており、吉川はその外を回らざるをえなくなった。差していたらあるいは、という思いもあったかも。エンジン吊りの間には顔を歪める瞬間もあり、悪いレースだったわけではないだけに、かえって悔恨が強くなったかもしれない。

●11R

 10Rの会見で、濱野谷が「前のレースでFがあったので、攻め切れなかった」とコンマ16のスタートを振り返っていたが、このレースでも尾を引いた部分があったのか、赤岩善生と後藤正宗が「放った」とスタートを振り返っている。後藤はコンマ04の強烈なスタートだが、これは全速ではなかったということだ。赤岩はコンマ11で、これも様子を見てのものか。目の前で強化された罰則の適用を見てしまうと、どうしても意識に残るものかもしれない。

 そんななか、井口佳典はコンマ15。これは6番手スタートなのだが、決して危ないところのない、堂々たる逃げだった。自信と確信のなかで1艇身のスタートを決め、揺るぎなく逃げたということだろう。ようするに、足的には少々の後手など、気にならないということ。その手応えもあったのだろう、とにかくレース後の井口は立ち上るオーラが力強いこと。1号艇となる優勝戦に向けて、もう一段階、気合が乗ったのは間違いないようだった。ちなみに、一昨日から走るレースは安定板が着いているので、明日も着いたほうが調整はわかっているとのこと(笑)。もはや板が着いたほうがいい、というのも不思議なことだが、もちろん「取れたら一からやり直すだけ」とまったく動じる様子はない。来るなら来いの心構えは、まさに井口らしさである。一時大舞台から遠ざかり、SG復帰後もそこまで目立ってはいなかった井口だが、これで井口佳典が完全に戻ってきた。そんな気配を感じさせるレース後であった。

 今垣光太郎は昨年大会で1号艇ながら敗れた。それも地元三国で、である。今回は当然、そのリベンジの機会であり、今垣自身もそう捉えてはいるようだが、「6コースは遠すぎる。奇跡が起こらなければ厳しい」と会見で口にした。えっ、もう6コースで決まり? まあ、変幻自在な光ちゃんのこと、本番になればどうするかはまったくわからん。超伸び型にするかもしれないし、前付けがあるかもしれないし、すんなり6コースで展開狙うかもしれないし。そのある種の何でもありが今垣光太郎の醍醐味だ。明日、何を見せてくれるのか、それこそ奇跡のリベンジを若松に立ち上らせるのか、楽しみ!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)