BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――ハイテンション!

●10R

 2着であがってきた坪井康晴を、菊地孝平が笑顔で出迎えた。同期で登番も1番違い。若手のころからともにSGやGⅠで戦ってきた盟友だ。そして、菊地も12Rに同じ枠番で登場する。坪井は菊地の笑顔に喜びが倍増しただろうし、菊地も坪井の姿にさらに意を強くしたことだろう。
 それにしても、SG優出は4年ぶりとは!「久しぶりなんで、本当にうれしいです」と坪井も会見で目を細める。その間に、準優3着は4回。あと一歩のところでファイナルのシートを逃してきて、ようやくその壁を突破したわけだ。気分上々で優勝戦のピットに入れることだろう。

 勝った平本真之を出迎えたのは、磯部誠だ。デビュー当時は師弟関係にもあったふたりで、これは元師匠からのエールとなったはず。そして平本自身、昨日の6着大敗の鬱憤を思い切り晴らす逃げ切りだったから、そのレースごとは正反対の明るい表情を見せて当然だ。その平本には、同期の篠崎元志が握りこぶしを突き出している。万感込めてグータッチで返した平本は、苦楽をともにしてきた元志の祝福に一気にテンションが上がったに違いない。

 寺田祥の気迫の戦いは、ひとまずここで潰えることになってしまった。結果は3着。残念ながら着争いでの見せ場らしい見せ場は作れず、そして着順としてはあと一歩というものだけに、複雑な思いは残ったことだろう。エンジン吊りを終えると、薄く微笑を浮かべながら足早に控室へ。悔しさをあらわにするよりも、そのどこか飄々とも見えたその姿にかえって無念が見えたような気がした。ともかく、決して上位とは言えないモーターをなんとか立て直さんと努力を重ね、水面でも気合の走りを見せてくれた寺田。ナイスファイトでした!

●11R

 徳増秀樹は真っ先に控室へと消えていったが、それ以外の5人はエンジン吊りを終えると固まって、レースの感想を語りながら控室へ。案外、こうしたシーンは珍しい。列を成すように次々と、というのはよくあるが、5人が言葉を掛け合いながら控室へと消えていくというのはなかなか見ない光景だ。
 その中心が萩原秀人。惜しくも3着だったわけだが、萩原としてはまくり差しで2番手に抜けていった茅原悠紀の航跡について、本人に言葉をかけたったようだ。それに茅原はもちろん、石野貴之らも呼応してこうした光景になったというところ。萩原は握って優出と目論んでいたところ、鮮やかなスピードで抜き去っていった茅原の走りが衝撃的だったのだろう。

 茅原は、勝てはしなかったが「完璧でした」と会見で振り返った。茅原自身も納得のレースだったのだ。足も、ハンドルも。「②の内に行くまくり差しって簡単じゃないんですけど、そこに行けたのが良かった」と語っていたように、鋭い角度で狭いところを突き抜けていったレースぶりは、たしかに凄かった。
 そして茅原は「地元のつもりで」とも言った。茅原はこの水面で新鋭王座決定戦を優勝し、GⅠも複数回制している。相性抜群なのだ。地区的にも、岡山支部にとっては準地元と言っていい水面。だから「寺田さんがダメなら自分が、という思いはあった。明日は寺田さんの分も背負って頑張る」と茅原は言った。寺田の思いは、この男が受け継ぐのである。

 勝ったのは石野貴之。「ぶっちぎりで節イチでしょうね」というほど、圧倒的なレースぶりだった。スタート後、1マークまでに後続を突き放すほどで、危なげない逃げ切り。会見で「(12Rで磯部が順当逃げたら)プレッシャーかかるでしょうね」という質問に対して「それが仕事ですから」と笑った。たしかに、2コースからこの足で来られたら、インとしてはかなり嫌なもの。この時点ではもちろん1号艇の可能性もあったわけだが、2号艇であっても優勝できる足なのだと感じているようだった。もしかしたら、展示ピットでこのレースを見ていた時点から、磯部にはプレッシャーがかかっていたかも!?

●12R

 池田浩二、テンション高すぎ! まず、ピットに辿り着く目前、スタンドに向かってガッツポーズ! ボートリフトに乗ってからも出迎えた仲間たちにガッツポーズを見せつける。陸に上がってヘルメットを脱ぐと、笑顔満開! 祝福してきた島村隆幸とはハイタッチだ。そして、おもむろに組みついて、柔道の大腰! いや、投げはしなかったけど、島村が軽く浮くくらい持ち上げたのである。そこに勝った磯部誠がやってきて、深々と一礼。これは磯部のいつものアクションだが、池田は「あ、じゃあ俺も」とばかりに直立不動で深々とお辞儀だ。その後も大盛り上がりで控室に消え、やがて飛び跳ねるように再びあらわれて、会見場へと猛ダッシュ。こんな池田浩二、見たことない!

 正直なところ勝算が薄かったという戦前、だからこの優出はかなり嬉しいものだったそうだ。しかも、かわいがっている磯部とのワンツー。さらに言えば、平本真之も優出していて、常滑のトップスリーが揃って優勝戦に駒を進めたのだ。そのうえ、池田はグラチャン連覇の可能性を残した。たしかに高揚感マックスとなる条件は揃っていたわけだ。こんなにもハイになっている池田浩二を目撃できて感激っす!

 そして、昨年オールスターの借りをひとまずは返してみせた磯部誠。SG初制覇のでっかいチャンスを手に入れることになった。正直、今日は「胃薬もらいにいこうかと思った」ほど、緊張感はあったのだという。ただし、時間が経つにつれ、具体的にはレース間のスタート特訓をこなし、展示を走ってみて、メンタル面にまったく問題ないと確認。平常心で本番レースに臨めたそうである。それが、あの二の轍を踏まなかったひとつの要因ではあろう。

 とはいえ、優勝戦1号艇はまた別のプレッシャーがかかるだろう。SGタイトルに手の届くところまで辿り着いたのだ。会見を見ていて、正直に言うと、すでに緊張は始まっているのではないかと感じたのがどうか。あと24時間、磯部は自分との戦いにも臨まなければならない。それを克服して満願成就なるか。明日は一世一代の戦いをしかと見せていただこう!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)