BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――転覆の後……

 1R、笠原亮が1マークで転覆。なにしろ、大きな事故で長く欠場を強いられただけに、思わず肝が冷えた。すぐに「選手、異常なし」のアナウンスが流れて胸を撫で下ろしたわけだが、そうなるとようやく戻ってきたSGの、わずか2走目での転覆が痛々しく感じられてくる。レスキューで戻ってきた笠原は、しっかりとした足取りで、淡々とはしていたものの、落胆は大きいだろう。

 笠原はまず、戦った相手のもとへと頭を下げて回っている。つまり身体にはまったく異常がないということだろう。この転覆に巻き込まれた近江翔吾のもとに真っ先に向かい、続いて田中信一郎、原田幸哉と先輩のもとへと回った。田中は頭を下げられるより先に、笠原の身体を気遣う。田中は自身が出走したレースかどうかに関係なく、転覆などがあるとその選手を気遣う姿をよく見かける。そういえば、近江のエンジン吊りをしていた森高一真も心配そうに笠原を気遣っていたのだった。後輩が影響を受けたとはいえ、やはり事故をしてしまった本人の無事も気になるところなのだ。こうした事故は他人事ではないだけに、選手たちは結果よりもまず、その容体を気に掛けるわけだ。

 笠原は6Rを控えており、あまり時間が残されていない。それもあってだろう、静岡支部はもちろんのこと、東海勢が総出で転覆整備をヘルプしていた。池田浩二は笠原に6Rの枠番を確認し、すぐに艇旗艇番の準備。ボート交換になるため、新たに使用するボートの到着を待った。それを見て深谷知博が、同地区とはいえ支部の違う先輩に仕事をさせるわけにはいくまいと、6番の艇番を池田から受け取ろうとしたが、池田は俺がやるからと拒否。それよりも転覆整備のほうを手伝え、ということだろう。

 モーターの整備はもちろん、選手が自身の手で行なうわけだが、転覆整備は別。水に浸かってしまったモーターをいったんバラバラに分解するので、時間がかかるから、整備士さんも含めて一丸となって進めていくのだ。まして、この場合は後半のレースが迫っている。井口佳典にしても平本真之にしても、自身の調整はもちろんあるわけだが、それよりも仲間の緊急事態をなんとかしなければと、一致団結で協力するわけだ。これもまたボートレーサーたちの美徳というものだと思う。

 で、作業の中心はもちろん笠原本人なのだが、同じように中心となって仕切っていたのが菊地孝平。笠原以外の選手ができることを率先して菊地が行なっており、こうしたときの精勤ぶりには本当に頭が下がる。笠原自身ももちろんキビキビと動いて、2Rが始まる前には一通りの作業が終わったのだった。早い。養成所から叩き込まれる機敏な行動、これもまたボートレーサーの凄さのひとつだと思う。

 2R、西村拓也が差して1着。エンジン吊りが終わると西村は即座に整備室へ。これはなかなか珍しい行動で、その姿を追ってみると、整備士さんに頭を下げていたのであった。さらに少し会話を交わしている。西村はこのレース、セット交換で登場。その相談に乗ってくれた整備士さんにお礼を告げ、さらに整備によってどのような変化があったかを伝えたのだと思われる。整備をしてすぐに結果が出たわけだから、整備士さんに言葉をかけたかったのだろう。整備士さんも人の子、こうしたコミュニケーションも大事なんだろうなあ、と思った次第。

 07年の徳山レディースチャンピオンで、長嶋万記も同じような行動をしていたな。整備士さんのおかげで水神祭ができました、と殊勝に語っていたのが思い出される。って、あれからもう16年!? 万記ちゃんも不惑を超えるわけである。その長嶋ももちろん、笠原の転覆整備ではてきぱきと動いておりました。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)