BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――これがチャレンジカップ

 通常のSGに比べて、遅くまで試運転をしている選手が多いように思う。レース後も試運転に出ていく選手が多いレディース勢が20人も同じピットにいるから、とも考えられるわけだが、それをふまえて考えても、試運転用のピンクの艇旗が普段よりも多いように思えるのだ。10R発売中の試運転が始まる前、20艇分ほどある試運転用係留所はほぼ満艇で、
この後に出走を控えている選手のボートは3艇のみ。やはり女子選手のボートが多くはあるものの、SG組もその数はほとんど変わらない。
 9R発売中には、整備を終えた平本真之がそこに加わっている。予断を許さない賞金ランク14位の身の上ながら、大きな着を並べてしまっているだけに、パワーアップは急務。整備を終えて試運転は明日、というわけにはいかないのである。平本は大急ぎでボートをリフトに運んでいったのだが、ちょっとちょっと、まだプロペラを装着してないっすよ! リフトに乗せてからそれに気づいた平本、バツが悪そうな苦笑を浮かべながらボートを戻し、大慌てでペラ室にプロペラを取りにいったのであった。1秒でも時間が惜しい!のである。

 地元の中島孝平は3R1回乗りだったが、その後はとことん調整と試運転。やはり予断を許さない賞金ランク15位、しかもここは地元三国。大きな着を並べたまま終わるわけにはいかない。というわけで、ピットにいればとにかく中島の姿を何度も見かけることになる。その有様は、とにかく必死なのである。

 これまた予断を許さない賞金ランク17位、島村隆幸も必死の試運転。今日の出番は1号艇で、必勝の構えだったはずなのだが4着。好枠を使い終えて3着2本、4着1本では、やはり上積みが絶対に欲しいところだろう。

 それにしても、この順位界隈が苦戦気味なのですね。18位の篠崎元志は部品交換を繰り返しているが、初戦のイン逃げ以外はゴンロクである。というわけで、8R後はまたもや本体を分解。ここまで元志の姿は圧倒的に整備室で見る機会が多いのである。
 そうそう、本体整備をしている選手も、2日目にしては通常よりも多く感じられるわけである。試運転にしろ、整備にしろ、これがチャレンジカップということだろう。たとえば春や夏あたり、手応えが今一つであった場合、今後の引き出しを増やす意味でもペラ調整を試すとか、一か八かの部品交換よりも自分なりの理論があるプロペラを優先するとか、そういったこともあるだろう。しかし、グランプリを目指すためにはもう試すとかどうとか、そんなことは言っていられない。一か八かになったとしても、本体に喝を入れようという思いが強くなってもおかしくはない。そのうえで、納得のいくまで試運転を繰り返す。グランプリ戦線という意味ではもう後がない段階だから、悔いを残さないための動きがより顕著になるということだ。

 だから逆説的に、余裕がありそうに見える選手は戦っていけるだけの感触を得ている可能性が、通常のSG以上にあると考えていいのではないか。7R2着だった菊地孝平は、9R発売中のころにはもう通勤着に着替え終えている。大きな作業はせず、また1便で宿舎に戻ろうとしているのは明らかだ。実際に気配は良さそうに見えていて、レースでも今垣光太郎に先着はされたが、自身も1マークではインの寺田祥を差し切っているのである。賞金ランク19位と、是が非でも順位をひとつ、ふたつ、いやそれ以上引き上げたい立場だが、だからといってナーバスになる必要はない、というふうに見える菊地。その様子は苦闘の15~18位の面々に比べて、むしろ頼もしく見えたりするわけである。
 通常のSG3日目といえば、多くの選手が大きな調整はすでに終えていて、ペラを煮詰めたりの段階に突入し、整備室を含めてピットはやや静かな空気になりがちである。チャレンジカップ3日目の明日はどうか。ざわつきはまだ残るのか。それとも……。

 レディースでは9R、遠藤エミの3コースツケマイが印象的だった。遠藤の必殺技炸裂といった場面であり、5R4着をしっかり巻き返す一撃でもあった。レース後、その遠藤と田中信一郎、中谷朋子が長く話し込む姿があった。遠藤は何度かハンドルを切るような仕草を見せており、田中がそれを受けてハンドルを回す仕草。そんなことが繰り返されて、最後は中谷が小さく拍手をするという。どんなハンドルであのツケマイが決まったか、田中と中谷の両先輩が問いかけていたということだろうか。田中が感心したようにうなずいて、遠藤は爽やかな微笑みを浮かべる。まさに会心!

 試運転の話をこちらでもするなら、1R1回乗りだった細川裕子と川野芽唯が遅くまで続けているのだった。細川は逃げ切って、得点率的にも悪くない位置につけているのだが、さらにリズムアップさせようというのか、あるいは逃げ切ったものの気になる点があるのか、調整と試運転をやめようとしなかった。川野はドリームも含めて大きな着が並んでしまっていて、巻き返しを期しての調整と試運転だろう。川野はクイーンズクライマックス出場は当確なのだが、勝負駆けうんぬんとは関係なく、このままでは終われないということだろう。この二人は明日も直接対決、どんな結果がもたらされるのか。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)