BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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W優勝戦 私的回顧

北陸のニュースター!

11Rシリーズ優勝戦
①西橋奈未(福井) 17
②魚谷香織(福岡)   16
③池田浩美(静岡)   16
④細川裕子(愛知)   16
⑤中村かなえ(東京)08
⑥岩崎芳美(徳島)   15

 このシリーズの優勝をもって「ニュースター誕生」は言い過ぎではある。格付けはGⅢだからして、通常のオールレディース優勝とさほど変わるものではない。だがしかし、2023年の年末につらつらとこの大会を観戦した全国の人々は、こぞってこう思ったのではないか。
「来年の今ごろ、きっとこの子はもうひとつ上の舞台に立ってるぞ」
 と。それくらい、今節の西橋はボートレーサーとしてケタチの資質を見せつけた。初日ドリーム戦の2周1マーク、3艇身先を行く海野ゆかりを捕えきったかに見えた全速差し。あのあたりから背中にぞわぞわしたものを感じたが、初日の時点ではまだ調整がズレていたはずだ。

 2日目、3日目と回転やら何やらが徐々にしっくりきてからは、もはやシリーズ組では敵なしの存在になった。足色もターンも道中の位置取りも非の打ちどころがなく、「今日の11Rか12Rの6枠に投げ込んでも健闘するかも?」などと思ったものだ。そんなこんなの6日間を振り返れば、冒頭の言葉も言い過ぎではない気がするのだが、どうだろう。

 レースを簡潔に振り返ろう。枠なり3対3からスリットはほぼ横一線。ただひとり、5コースの中村だけが半艇身ほど覗いてみせた。かなえに◎を打った私はそぞろときめいたが、得意の絞めまくりを狙った瞬間に4カドから伸び返した細川とドンピシャのバッティング。これで攻めが後手後手となって、私の舟券は紙くずと化した。
 残念な6着だったが、日々神がかったレースを魅せる西橋を、4日目に2コースからズッボリ差し抜いたのも中村だ。西橋ほどの王道感はなかったが、未知の魅力に満ち溢れた6日間だった。2024年が、つまり明日からの中村かなえが楽しみだ。

 中村の攻めが頓挫し、西橋が悠然と1マークを先制。で、3コースから強ツケマイで襲い掛かったのは浩美11号機だ。その迫力はなかなかに猛烈だったが、西橋がガッチリ受け止める。さらに2マークでも浩美が渾身の差しハンドルを突き入れ、あわや逆転かという態勢まで持ち込んだ。

 だがしかし、昨日の準優同様、西橋が仕上げきった31号機はターン出口からシュッと加速し、そこで浩美の追撃を封じて優勝を決定づけた。惜しくも準Vに終わったが、あわやの見せ場を作った浩美11号機の猛攻とパワーにも拍手を送りたい。

 さてさて、今節はやまと学校で男どもを牛耳ったとされる土屋・西橋・實森の「花の119期・美女トリオ」が集結した。血の気の多い3人はF過多などでなかなか順調に巡り合えず、かなりレアな揃い踏みだった。そして、6日間の成績は「三者三様」を越えて「天国と煉獄と地獄」みたいな道のりだった。

 圧倒的な強さで優勝した西橋、掛け値なしのワースト級で這い続けた實森、シリーズ後半から本領を発揮した土屋。残酷な対比ではあったが、それぞれの立場が劇的に違ったからこそ、それぞれの胸に秘めるものも大きかったことだろう。来年も切磋琢磨してライバル心をぶつけ合ってもらいたい。

有終の美女。

12Rクイクラ優勝戦
①浜田亜理沙(埼玉)15
②遠藤エミ(滋賀)    22
③守屋美穂(岡山)    23
④川野芽唯(福岡)    28
⑤三浦永理(静岡)    25
⑥寺田千恵(岡山)    24

「ハマダーー、クラシック行くぞーー!!」
「モリヤーー、まくってくれーー!」
「遠藤、頼んだぞ――!!」
 12月31日、大晦日の夕刻にさまざまな思いを抱いた人々が、思い思いの声を交錯させている。11Rまでボッコボコにやられた私も、心の中で「エミ頼む、年を越えさせてくれ」などとつぶやいた。

 12秒針が回って6艇が発進し、スリットが近づいたときに招かれざる景色が見えた。インの浜田だけが突出した見え方。昨日までゼロ台2発などキレッキレに踏み込んでいた遠藤が、完全に出し抜かれた見え方。

 そんな景色のまま、浜田など6艇は1マークに向かった。とりあえず浜田が大きなアドバンテージを得たわけだが、ボートレースの着順はスタートだけでは決まらない。後手を踏んだ2コース選手が、くるり小回りで差し抜け1着。そんなシーンを何度見てきたことか。

 エミ、頼む、あんたならできる!
 心の中で2度目の念を入れた。が、エミでもできなかった。これだけの大舞台の1号艇で、ティアラだけではない大きな“副賞”=夫婦でSG出場も懸かったイン戦で、亜理沙は完璧に逃げきった。初動から角度からスピードから、1ミリのプレッシャーも感じさせないイン逃げだった。逆に、差しハンドルを入れたエミが亜理沙の引き波をなぞってズルリ後退した。それほどパーフェクトなインモンキーだった。

 バックの出口で勝者が決まり、そのはるか後方で②遠藤vs③守屋の2着争い、そのまたはるか後方で④川野vs⑤三浦の4着争いが繰り広げられていた。その一騎討ちにもケリがついて、3周目には123456、展示航走のような隊列ができあがった。実力の拮抗した選手が、同じような機力で、同じようなスタートを切るとこうなる。そんな典型的な本命決着で、今年最後のビッグレースは終わった。

 スリットからゴールまで先頭に立ち続けた浜田がピット方向に帰還すると、8000人以上も詰め掛けた満員の観衆は、思い思いの暖かい拍手を送った。すべてが異世界に思えたあの真夜中の「イシノコール」とは、まったく別物の祝福スタイル。そんな不揃いの拍手になんとなくホッとしながら、私はそそくさと記者席に戻ってこの記事を書きはじめた。

 そして、もう書くことがない。シリーズ前検から7日間に渡って偉そうな能書きやパワー評価モドキを並べて、7つの賞典レースの予想をぜんぶ外し、当然のことながら舟券もぜんぶ外した私の文章に、なんの説得力があるだろう。レースも枠なり決着の一番人気だったし(苦笑)。
「そんなん、いつものことじゃん。何をいまさら」
 おそらく全国の数十人の愛読者がそんなツッコミを入れただろうが、今日は大晦日。今日という日のボロ負け、すっとこどっこいの予想は、いつもの何十倍も心に波立つものがあるのですよ。
 来年こそは。
 今日のところはこの月並みな、いや、年並みな言葉とともに失礼します。また大村で逢いましょう。よいお年を!(photos/シギ―中尾、text/畠山)