BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――向き合う

「情けないわっ!」
 競技棟から出てきた森高一真とバッタリ。顔を合わせた途端、森高はそう叫んだ。7R、1号艇インコースから先マイ態勢に入ったが、そこで艇がバウンド。流れたところに握った峰竜太がいて、それを押しのける格好になった。それが態勢を立て直すことにもなって、2着には粘ったものの、森高としては決して褒められたレースではなかったのだろう。
 台風接近で安定板装着のレース。まあこういうこともあるだろう。だから、いやいやいや、と森高の言を否定しようとすると、森高はさらに「アカンわ!」。着順ではない。みっともないレースをしてしまった。森高はとことん自分を責めているのである。

 8Rでは井口佳典が自分を責めるように首を振るレース後。どうやら回転がまったく上がっていなかったようで、己の調整ミスを呪っているようだった。台風接近で気圧が下がり、8R前後にはついに1000hPaを割っている。雨も降って湿度も上がり、回転が上がりにくい気象条件だった。しかし、井口はそれを言い訳にはせず、自分の調整が足りなかったというのである。同じレースで4着だった磯部誠と回転の上がらなさを語り合うと、「ピット離れもおかしくなってた」とも。ただ、リプレイを見ても同体では出ており、磯部からは「舳先が見えてましたよ」とのこと。「いやいや、あれはタイミング(が良かっただけ)」と首を振る井口。というわけで、井口はその後はペラ室にこもって調整に取り組むのだった。

 9Rは少し残念なレースになってしまった。村上遼が痛恨のフライング。スリット写真を見ればほんのわずかな勇み足であり、村上も入っているという感覚だったようだ。F艇は一足先にピットに帰ってくるので、レースの最中に九州勢はリフトに集結。その輪のなかで村上は、痛々しいほどカタい表情になっていた。それでも、その後は報道陣の取材に真摯に応えていた。本当はあまり話をする心境ではないはずだが、しっかりと向き合ったのだ。残り3日、一矢報いる走りを見せてほしいと、その姿を見て思わずにはいられなかった。

 このレースではさらに関浩哉が転覆。最後方を走っていながら、3周2マークを回ったところでの転覆だった。装着場のモニターで見ていた井口が、まさかの場所、展開での転覆に驚いて目を丸くしていたほど、想定外の転覆である。幸い、関は無事で、すぐに転覆整備に取り掛かっていた。ただ、なんだか元気が失せているような雰囲気があって、転ぶはずのないところでの転覆はショックだったのだろう。やはり台風接近で、水面もいろいろな表情を見せている。選手にとっては難しい状況なのだ。

 そんな事故が重なってしまったレースを平本真之が逃げ切っている。ここまでオール3連対。3着3着2着と来ての1着は、まさしく会心の勝利であろう。もう何度も何度も書いているように、感情を隠さない男・平本真之である。だから、ピットに帰ってきてすぐに見せた満開の笑顔で、これが会心だったとはっきりわかってしまうのであります。もちろん、そんな平本が素敵です。

 10Rを逃げ切った菊地孝平は、平本のような笑顔は見せなかったけれども、なんだか非常に力強い目つきであった。これもやっぱり会心の表現だろうか。コンマ10のトップスタートを決めての逃げ切り。前のレースでフライングが出ていながらも、過不足のない好スタートを決めるあたりが菊地らしいし、そして他を寄せ付けない勝利は満足感を高めてくれるものでもあっただろう。

 このレースの敗者勢で最も悔しさを露わにしていたのは馬場貴也だ。番手競りには持ち込んだが、退けられて5着。初戦の2コース差し快勝以降はどうにも思うような結果が出ていない。エンジン吊りを終えた馬場は、ヘルメット&カポック姿のまま立ち止まり、天を仰いで、ゆっくりと首を傾けていった。敗れたやるせなさ、あるいは悔いにまみれている様子がありありと見えたのだ。遠藤エミもそんな先輩を心配そうに見つめる。ディフェンディングチャンプとして当然連覇を狙い、好発進したはずが、明日は勝負駆けを強いられる状況に。この悔しさを活かして万全に持っていきたい予選最終日である。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)