藤原碧生が実に初々しかったのである。JLC中継でピットレポートを務める高尾晶子さんが、テレビカメラとともに取材を打診したときのこと。いったい何事? といった感じで目を丸くして、4~5人のクルーに囲まれつつ、ちょっとたじろいでいたのだ。高尾さんに概要を説明されると、要領を得たとばかりに笑顔を見せ、高尾さんの質問に丁寧に応えていた。今は養成所でマスコミ対応の講義もあるそうだから、いざ取材が始まれば堂々としたものではあった。それでも、まさか自分にカメラが向けられ、テレビで見たことのあるレポーターが声を掛けてくるとは思っていなかったのだろう。ヤングダービー初出場の藤原にとって、こんなにも報道陣がわんさとピットにいて、動画もスチールも含めてカメラが山ほど狙っている、そんな現場は初めてである。ビッグレースの現場に触れてみて、戸惑うことだってあるのは当然だ。
同期の竹間隆晟や藤田俊祐も同様かもしれない。今のところはそういった様子を見かけてはいないが、それでも今までに体験したことのない人の多さに驚いた部分はあったと思う。トップルーキーやフレッシュルーキーの「スター候補選手」制度が設けられ、YouTube動画も次々と公開されている現在というのは、まだ実績のない若手レーサーであってもそうした場に駆り出される機会は増えている。その意味で取材慣れというかカメラ慣れした選手も少なからずいると言っていいだろう。それでも、これまでの参加節では味わったことのない雰囲気に触れるというのは、こうした場の常連になるのだという決意を彼らに植え付けはしないか、などと考えたりもするわけである。そしてこうして大舞台で顔を合わせた以上、さらにもうひとつ上の舞台でまた頻繁に会えたらいいなともオッサンとしては思うのである。
カメラ慣れって意味では、やっぱり仲道大輔はそういう若手の代表格かもしれませんね。ほんと、この舞台に物怖じした様子がまったくない。持ち味のちょっとコミカルな振る舞いも随所で見せている。これは昨日の話なのだが、瓜生正義選手会代表がピットを表敬訪問して、若手たちは最敬礼で挨拶に訪れていたのだが、仲道もきっちり礼は尽くしつつ、瓜生の言葉に反応してギャグを繰り出していた。恐れ入りましたね。瓜生もおかしそうに仲道の様子に相好を崩しており、トップレーサーのなかでもそのキャラは浸透しているのだと思い知った。
実績上位組が、若手ながらも貫禄を感じさせるというのは、こういった場、あるいは雰囲気にすでに慣れているという点もひとつの要因なんでしょうね。たとえば羽野直也にとっては、マスコミだらけのピットはむしろ当たり前。コロナ禍の時期は人数が制限されていたけれども、その前はもっと多くの報道陣がピットにいて、その時期も羽野は知っている。ピットで顔を合わせれば、羽野のほうからにこやかに挨拶をしてくれて、もう30歳になろうというのにキュンぶりは健在であるが、同時にその自然体っぷりが場数の違いをはっきりと表現している。どう考えても、今節においては図抜けた大物レーサーなのだ。
あと、記念を獲ったというこちらの先入観もあるかもしれないが、入海馨も風格が出始めていると思う。昨年、優勝戦1号艇だったときよりも、格段に肝が据わっているように感じるのだ。入海の場合、15年のマスターズチャンピオンでデビュー目前の研修ということでピットに入っていた。陸での動きを実際の節で教え込むというものだ。そこでの初々しさしかない姿も見ているから、なおさら今の貫禄に感慨を感じるんでしょうね。ちなみにそのマスターズで今村豊のお手伝いをしているとき、手渡された工具か何かが今村の頭部に当たってしまってミスター悶絶。「デビュー前に今村豊をやっつけた若者」と我々にからかわれて恐縮してました(笑)。あの新人が記念覇者となって目の前にいるんだから、そりゃ感慨深いというものです。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)