BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――コク深き優勝戦となる!

9R ニッシーニャ、健闘

 

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 レース直前の西山貴浩に痺れた。戦いを控えて気合が入っているなんてのは当たり前。西山とて、いつだって闘志をたたえてピットインする。しかし、準優前の西山は間違いなく特別な思いを抱えて戦場に向かったと思う。一味違うと書いてきて、その先入観もあったかもしれない。それでも、この男が“何か”を欲してやまなかったのは、確かである。

 だから、敗れた悔しさもまた大きかっただろう。3周1マーク渾身の差しを放ったその先に、失速した原田幸哉がいて接触。これで優出への道は完全に閉ざされた。それまでの道中も長田頼宗のほうが終始優勢ではあったが、諦めずに追いかけ続け、一か八かの逆転差しは自身の力の及ばぬところで空転させられた。接触の際に足を打ち、西山は足を引きずりながらピットに上がってきている。師匠の川上剛が付き添って、医務室へと向かう。その途中で、西山は二度三度立ち止まって、腰を折った。足の痛みに耐えかねて、と見えるし、それもあったには違いないが、同時に「悔しさに耐えかねて」というふうにも見えた(実際、その後にピットにあらわれた西山はすでに足の痛みを感じていないかのように普通に歩いている)。

 無念の結果に終わりはしたが、今節は西山の姿におおいに感じ入らせてもらった。ヤングダービーでも同じ西山が見られると信じて、今日のところは健闘に拍手だ!

 

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 優出はまず、長田頼宗。昨年のグランプリシリーズ以来2度目のSG優出。こうなりゃSG優出優勝率100%だ! などとぶち上げたくなるわけだが、それはともかく結果的に関東地区唯一の優出となったのはめでたい。出迎えた東京勢のなかで、石渡鉄兵が嬉しそうに拳を突き出し、長田はそれに拳で応える。展示で水面にいた齊藤仁も、出迎えることはできなかったが、意を強くしたことだろう(結果は無念だったが)。

 長田は3日目だったか、部品交換はなかったようだが、本体を割っていたことがあった。「最初は後伸びで、自分のターンができなかったが、調整して昨日はターンしやすくなっていた」と、懸命の整備をして自分らしさを発揮できる足に仕上げたのだ。それが優出に結びついたのだとするなら、努力の尊さをまたひとつ知ったはずだ。明日ももう一丁努力して、優勝戦に向かうだろう。

 

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 勝ったのは魚谷智之だ。ピットに上がっても特に顔色を変えることなく、まさに勝って兜の緒を締めよを地で行く姿がそこにあった。会見でも、基本は視線を下に向けて、短い言葉で訥々と質問に答えている。オーシャン→メモリアルと連覇したころ、イメージトレーニングを始めたことが躍進につながったと話していた魚谷。それを今日も肝に銘じて、過ごしているようにも見えた。スリットの行き足、ターン回りは良さそうだとのこと。魚谷らしいレースができる仕上がりにはなっている。あとは気持ちの問題だが、その点に不安はなさそうである。

 

10R 淡々と

 

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 全体的に、実に淡々としたレース後だったと思う。

 柳沢一は、嬉しいSG初優出! しかしピットに戻ってきた柳沢は微笑みを浮かべる程度で、周囲とも歓喜を分かち合うようなことは特になかった。師匠の原田幸哉がさぞかし喜んでいるだろうと、その絡みが出現するのをずっと待っていたのだが、特別な祝福シーンなどなく、粛々とエンジン吊りが始まっている。実際、原田は「やったねえ」と一言だけ、柳沢に声をかけただけだったらしい。

 柳沢は会見も淡々とこなした。SG初優出の興奮は見当たらず、まるで優出常連のようなふるまい。SG初優出をどう思うか問われても、「普通に嬉しいです」。以上。そんなふうにふるまえることは、それはそれですごいわけだが、ちょっと拍子抜けでもあった。もし明日勝ったらどんな柳沢が見られるのか。ちょっと興味は残った。

 

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 勝った菊地孝平も、歓喜をあらわにするようなところはなかった。ヘルメットの奥に笑顔も見当たらず、むしろ目力がぐぐっと増して、まるでレース前の気合満点の表情のようにも見えた。まあ、準優突破した直後は、優勝戦のレース前、とも言えるわけで、すでに菊地の優勝戦は始まっているのかもしれない。

 会見で興味深かったのは、「気持ちに余裕があると思っていたが、1マークでは体が硬かった。体は緊張していたみたいですね」。菊地ほどの実績者でも、そんなことがあるのか。ただ、いちばん大きいのは、そういう状態を知り、認めるということだ。それを想定しておけば、対応はできる。大一番で取り乱すことはない。結果的に2号艇になったこともあり、明日は体が緊張していることに驚くことはないだろう。力を出し切れる状態で優勝戦に臨めるということである。

 

11R 死角はあるか!?

 

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 瓜生正義が3カド! 正直、あるかもなあ、となんとなく予想していたので驚きはしなかったが、やはり3カドは“決意のあらわれ”であり、それを目の当たりにすると心が震える。ピットで見ていても、思わず声をあげてしまう。

 ただ、スタートが行けなかった。レース後、太田和美が「おっせえよ! 30くらいやろ?」と声をかける(コンマ28)。太田は説教したとかいうわけではなく、せっかく引いたのにもったいない、というニュアンスを込めているように思えた。瓜生自身、やはり痛恨であろう。太田に向けた表情には、カタさが見てとれた。

 

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 寺田祥は、何度も何度も首をひねっていた。中へこみの隊形と見るや、内を絞めていく意欲的なスリット後だったが、平本真之に引っかかり、その平本にツケマイを浴びせるような航跡しか選べなかった。平本は振り切るのだが、その展開に乗った6号艇が差して先んじていた。明らかにチャンスはあっただけに、3着という結果は悔しさしか残さないだろう。肩を並べて谷村一哉と話しながら、悔しさを隠そうともしないテラショー。結果は伴わなかったけれども、気持ちの見える攻めっぷりはカッコよかったと思う。

 

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 その寺田を差した6号艇は茅原悠紀! 8R発売中に、「くろすださ~ん、なんとか準優乗れましたよ~」と声をかけてきて、「生き残ったんだから、(優出)あるよ!」と激励を送った。ほんとにあった! ピットに上がった茅原はこちらの顔を見つけてニコッ。そして親指を力強く立てる。ええ、そうです。茅原と仲良く絡んじゃいました自慢です。嬉しさのあまり書いちゃっただけです。

 僕のことはともかく、茅原は多くの人に祝福されていた。先輩の吉田拡郎は当然。先に優出を決めていた菊地孝平も駆け寄って握手を交わした。菊地と茅原は“山部”の仲間だ。さらには篠崎元志も「やるねぇ~」とグータッチ。祝福の輪はさまざまなところで巻き起こっていた。

 会見で優勝できる可能性を問われて、茅原は「20%」と答えた。確率6分の1として、16・7%。6コースの全体の1着率は2%程度。そう考えたら、この回答、かなり強気だぞ! そんな指摘を受けて、茅原は「あら、言い過ぎた?」みたいに苦笑したが、だとするなら本気でそれくらいの確率はあると考えているということだ。茅原のグランプリ制覇のカポックの色は……もはや言うまでもありませんね。明日もイメージカラーをまとって戦うことになる。

 

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 優勝戦1号艇は石野貴之。いやあ、強い。ほんと、強い。SG2連続優勝の可能性が高まったことと言うより、こうしたチャンスに震えることなく、むしろここ一番では最高の集中力を発揮し、凛々しく雄々しく立ち向かう、その気持ちの強さ。“本紙予想”では2着付けと少々逆らったわけだが、機力とレース前の石野の様子を考え合わせれば、どうしたって死角は見当たらないのだった。

 出迎えた松井繁と太田和美も、勝って当然という風情でリフト前に立ち、特別な祝福の言葉も態度も見せていない。石野の強さを身近で知っているのだから、ただ淡々と出迎えるのみだ。そんな大先輩二人の姿を見上げて石野の目元がさっと明るくなる。なんかもう、盤石の関係性である。

 明日もまた、凛々しく雄々しい石野をピットでは目にすることになるだろう。オーシャンカップは3号艇での優勝で、今回は1号艇。しかし、重圧に怯む石野ではないし、石野自身、「プレッシャーを感じたことはない」と会見で言い放っている。さあ、明日は石野の独壇場となるのか、それともこの石野の針の穴を突くような死角を見つける猛者が出てくるのか。とてつもなく強い石野を軸に、実にコク深い戦いが明日の夜、待っている。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)