まず真っ先に。 魚谷智之、池ポン……
いや、池田浩二、山崎智也は、ひとまず無事です。
明日の出走表に名前がある、ということで、ひとまず無事。
ただし、肉体的にも精神的にもダメージはゼロではないだろう。
11R直前に整備室を覗くと、魚谷智之の姿があった。
転覆後の整備をしていて、整備士さんたちとも穏やかに
会話を交わしていた。その後、歩様にも特に違和感はなく、
大きな問題があるようには見えなかった。
ただ、報道陣と話をしながら、落胆したような表情は見せていたが。
地元SGの初日に事故に見舞われたことは、
気分をふさぐものだったに違いない。
ドリーム戦での事故は、ピットで見ていると何が起こったのかは
わかりにくかった。ただ、レース途中でレスキューが
ピットに向かってきたので、選手――池田と智也が無事ではないということは明らかだった。素早くレスキューを迎え入れる態勢をとっていた選手や係員さんの様子を見ながら、
昨日の訓練の様子がよみがえってきてしまった……。
池田は、担架に乗せられて
レスキューを降りている。うつ伏せで乗せられ、
痛みに耐える表情が見えて、意識を失うような事故では
なかったことにまずは安堵する。
そうはいっても、池田の表情は相当に痛々しい。
救護室に入ったあと、なかなか姿をあらわさなかったので
容体が少し心配されたが、欠場にならなかったということは、
大きなケガではなかったということである。
智也は、レスキューの上で立ち上がり、
ファンに頭を下げながらピットに戻っている。
ケガはなかったか……そう安心しつつレスキューから降りるのを見ていたら、なんと、智也は足を引きずっているではないか!
しかし、駆け寄った毒島誠には「大丈夫大丈夫」。
毒島は介助しようとも考えていたはずだが、
智也はそれを制して自力で歩きだしている。
「救護室へ!」と職員に言われても、
「大丈夫です」と智也はまずカポック脱ぎ場に向かい、
勝負服などを所定の場所に出してから、救護室へと向かっている。 どんなに足が痛もうとも、ファンに礼を尽くし、
仲間の気遣いを軽くしようとし、洗濯やカポック整理の係の人を
待たせるまいと気遣う。これが山崎智也の男気なのだ。
そう、智也は実は男っぽいヤツなのだと、僕は思っている。
着替えて、モーター返納に向かう際には多くの選手が気遣う声を
かけているが、智也はすべてに軽い笑みで「大丈夫」と答えていた。
足を引きずっているのに……。
もちろん、自力で歩いているからには、大きなケガではない。
それでも、毅然とふるまう智也は、本当にカッコ良かった。
これが山崎智也のもう一つの真骨頂だと僕は思う。
3人とも、今日のつまずきにめげることなく、
明日は巻き返しのレースに臨む。池田は賞典除外になってしまったが、しかし意地は見せてくれるはずだ。
明日はこの3人をぜひとも応援しようじゃありませんか。
もちろん、私は舟券もがっちり買いまっせ
(事故後で人気も下がるだろうし・笑)。
その12R前、烏野賢太がようやく試運転を終えて、
ボートを陸に上げている。この時間まで試運転をしていたのは
烏野のみ。そう、最後の最後まで試運転をしていたのは、
若手でも木村光宏でもなく(木村は今節いませんが)、
烏野賢太だったのである。
ちなみに、2番目に遅くまでやっていたのは、今井貴士。
昼間は尼崎の艇運係、夜は絶品お好み焼き屋のオヤジさんが
「今井選手は、人間性が素晴らしい」とベタ褒めでした。
来期はもちろんA1復帰を!
というわけで、烏野賢太。この時間帯まで
水面を駆け廻っているということは、つまるところ、
モーターの気配に不満が残るからである。
烏野も単に試運転をしているわけではなく、
数周走っては係留所でペラを外し調整、
そしてまた試運転して、またペラ調整して、という繰り返しを
延々行なっていたわけである。それにしても、
とことんパワーアップを追求している姿は、やはり素敵である。
尼崎の帰宿バスの第1便は10R後に出発、
それ以前にレースを終えているベテラン勢は
たいてい1便に乗っかるのに、烏野は居残って走り続けたのだ。
なにしろ、今日は誰もが「暑い暑い」と口にしてしまう気候なのである。ベテランの域に差し掛かった烏野がここまでやっているのを見れば、誰だって、烏野賢太はやっぱりグレートだ、
としみじみするはずである。
というわけで、明日は烏野も応援するぞ。
舟券ももちろん買います。あ、9Rは今井と同じレースだ。
さてさて、時間は同じくらいの時間帯のこと。
尼崎のカポック脱ぎ場は競技棟の離れにあって、
ヘルメット置き場は屋外に設置されている。
レースを終えると選手はまずヘルメットを置いて、
脱ぎ場に入って装備を解く。
11R後、原田幸哉はヘルメット置き場の脇に座って、
報道陣の質問を受けていた。
リラックスした様子の原田はずいぶんと長話をしていて、
僕もなんとなくその様子は視界に入っていたのだった。
着替えを終えてヘルメットを乾燥室に持っていこうとした
川﨑智幸があらわれた。原田は川﨑に声をかける。
「僕たちがここで話していたら、川﨑さんのヘルメットが
ここから落ちましたよ」 えっ、と川﨑はすかさずヘルメットを点検。
傷のありかを探している。原田はさらに状況を説明していたが、
なぜか川﨑は敬語で応えていた。なんか不思議な感じ。
「あ、シールドから落ちたんだ!」
シールドについた傷を発見した川﨑。
本体に傷がつくよりは、取り換え可能なシールドに
傷がついたのはまだ幸いだったか。
しかし、川﨑は予備のシールドを注文しようとしていたところ
だったようで、まだ手元にはないようなのだ。
すると、原田が控室に走った。そして、手には真新しいシールドが
たまたま原田の手元には注文していたシールドが届いていたのだ。「これ、使ってくださいよ」
「え、ほんとに!? 幸哉、お前はなんてナイスなヤツなんだ!
幸哉は最高なヤツだよ!」 なははと苦笑する幸哉。
幸哉はすぐに使う予定のないシールドを渡しただけであって、
たいしたことをしたつもりでもないだろう。
もちろん川﨑は、すぐに幸哉のために注文するはずで、
この人もまたナイスな先輩なのである。
というわけで、明日はナイスな原田と川﨑も応援するぞ。
もちろん舟券買って……って、明日は買い目が増えそうだな……。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)