いやはや、静かだった。「特に何もありませんでした」と書いて終わりにしてもいいくらい、優勝戦メンバーの動きはほとんど見当たらなかった。
ピットの一番奥にあるペラ小屋の入口に「ニュージェネレーションスーパースター」のロゴが入った背中が見えて、それが毒島誠らしいということは確認できたが、小屋のなかにいたのは毒島のみ。他の選手はいずれも、優勝戦メンバーではなかった。
もちろん、もっとも気になっていたのは桐生順平の様子である。優勝戦1号艇は2度目。13年オールスター以来だ。あの日、桐生はリラックスしているようなふるまいを見せてはいたが、その実、それが緊張を隠すようなところもあったと感じた。はじめてのSG優勝戦1号艇なのだから、重圧に悩まされて当然。そして、それに呑まれたかどうかはともかく、桐生は結果を出せなかった。2回目のSG優勝戦1号艇。桐生の雰囲気があの日とどう違うのか、気にならなければおかしいというものである。
意外なことに、桐生は控室から姿をあらわし、すぐに控室へと戻っていった。2R発売中のことだ。実は「毒島以外の優出メンバーはペラ小屋にいなかった」を確認したのはその瞬間。桐生もきっと奥のほうでペラを叩いていると想像していたのだ。そうかあ、桐生はゆっくりと過ごしているかあ。表情がこれまた超リラックスモード。たしかにあの日とは違って感じられた。笑顔もごくごく自然で、まあ優勝戦が近づけば緊張感はぐいぐい高まるだろうが、いちど経験したことでSG優勝戦1号艇の日の過ごし方も心得たといったところだろうか。あの日の轍をもう一度踏むとは思えない。少なくとも、スタート後手で涙を流す、といったことはないように思う。
あの日とぜんぜん違う雰囲気なのは、仲口博崇もだ。仲口のあの日、というのは、もちろん昨年ダービー優勝戦の日だ。仲口自身は自然にふるまっているつもりだっただろうが、緊張感は隠せていなかったと思う。表情も硬かった。不惑を超えてついに掴んだ悲願達成のチャンスを前に、ガチガチになるのはやっぱり自然なことだ。
今日はもう、めちゃくちゃリラックスしてますね! これは経験うんぬんよりも枠番の違いか。仲口は朝の時間帯、唯一、整備室で見かけた優勝戦メンバーで、リードバルブ調整をしていた。その後は装着をしながら報道陣と談笑したり、徳増秀樹のモーター装着角度を一緒に眺めたり。昨日のほうがむしろ緊張していたように見えたな。もちろん、いい雰囲気である。
と、目立った動きが朝に見られたのはそれくらいである。中澤和志は2Rのエンジン吊りに、控室から登場。やはりゆっくりと過ごしている様子だ。石野貴之も同様。こちらは1Rのエンジン吊りに控室から駆けつけて、終了後は控室に戻っている。表情の凛々しさはまだ影をひそめていて、闘争心はスイッチオフといった雰囲気だ。
で、守田俊介は一度も見かけませんでした。いや、1Rのエンジン吊りにはいたと思われるのだが(近畿地区の丸岡正典が出走)、見つからなかったのである。優出メンバーのオーラを消してる? たった今、池上カメラマンがピットから戻ってきて、「俊介を一度も見かけなかった~」と泣きを入れてきた。控室でのんびりモードか? まあ、それも守田俊介らしいといえば、そんな気もするのだが。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)