原田幸哉と柳沢一が、装着場のど真ん中で長く話し込んでいた。足元には原田のボート。原田の手にはプロペラ。柳沢は手ぶらで、その前には原田のギアケース調整を見守っていた。
話しながら、原田はプロペラを光にかざし、目元に引き寄せて翼面を見つめていた。原田、菊地孝平らは、ペラを叩いたあとに外に出て、外光をかざしてペラの形状をチェックするタイプだ。ペラの形状はゲージでもチェックするが、自分の目で確認するのも大事なようで、これは誰もがやっていること。青山登さんに言わせると「同じゲージで叩いても、“顔”が違うものなんだよ」とのことで、それを確認する意味もあるだろう。多くはペラを叩いてその場でチェックしているが、原田や菊地はさらに装着場でそれをする。その光景を見せる選手はそれほど多くはない。
ここで僕は、いったん装着場を離れている。戻ったのは5分後。そのとき、原田がまだペラにじーっと見入っていて、少し驚いた。まさか5分の間そうしていたわけではないだろうが、しかしその“行程”はまだ終わっていなかったのだ。執念なのか、それとも気になるところがありまくりなのか。やはり柳沢と会話を交わしながらも、まだしばらくその体勢を崩さないでいた。
そこに歩み寄ったのは平山智加。師弟の会話に笑顔で加わっていった。幸哉と智加ちゃんの絡みって、今まで見たことあったっけ? 四国勢や太田和美との絡みは何度も見ているが、原田と平山は記憶には残っていない。原田の気さくさを考えれば、平山が心安く話しかけられるのは当然のことだが、原田&柳沢師弟と平山という組み合わせは新鮮だった。
平山はその直前には、毒島誠や茅原悠紀と話し込んでいた。場所は係留所だったから、足合わせをしていたのだろう。同世代ということもあって、その組み合わせにはまるで違和感がなかった。そして、平山がこの舞台にしっかり溶け込んでいるということでもあろう。こうした、トップクラスの選手と戦場の現場で交流できるのは、平山にとって実に大きなことのはずだ。他の女子にはなかなか経験できないことだし、彼女がこの舞台で戦い続けるという意味でも濃い経験となる。というわけで、エミちゃんもこの姿勢をぜひ真似してほしいなあ、とも思った次第。なかなかできないことであろうとは想像つくけど、きっとそれ自体がスキルアップになっていくはずである。
そうそう、こんな絡みを見ました、というお話では、銀河系サミットも見た。係留所で回転調整をしている森高一真のもとに田村隆信がやってきて、さらに井口佳典も加わった格好。え、銀河系の絡みは珍しくないだろって? それはそうなのだが、どうだろう、最近はそれほど頻繁に見かけないような気もするのだ。9~10年前は、彼らはSGでは新兵で、装着場で輪になってレースを見ていたりもしていたものだ。いまや中軸を成す世代になって、先輩に気兼ねすることもなくなった。同時に、銀河系勢力がここに来てややトーンダウンしているのも事実としてある。昨年は、07年以来8年続いていた「銀河系の誰かがグランプリに出場している」が途切れてしまっているのだ。SGに銀河系一人、ということもあった。そうしたわけで、今日のサミットは久しぶりに見た、という感覚が生じる。もちろん昨年はまさに異常事態であって、ここから巻き返してもらわねば困る。このサミットが、その狼煙であると勝手に思い込みたいところである。あ、森高に「クロちゃん、呑みすぎやろ!」と言われましたが、図星です。湯川浩司といい森高といい、銀河系には心配いただいてばかりで恐れ入ります。
さて、1Rは中野次郎が5コースまくり差し快勝! 初日につづき5コースのまくり差し突き抜けで1日が始まった。そして、昨日「まぐれ」と言った吉田拡郎同様、中野も「奇跡!」だって。いやいや拡郎も次郎も、素晴らしいショットであった。
中野の場合、モーターの素性に引きずられているところがあるのではないか、と思う。相棒の60号機は2連対率4位。モーターの番号プレートが黄色になっている(上位機以外は緑)。そのわりに、体感がどうにも良くないのだという。でも、あのまくり差し見ると、悪くないように見えるんだけどなあ。
「みんなそう言ってくれるんですよ。だから、自分の感覚を信じずに、そちらを信じて頑張ります(笑)」
個人的には、次郎が設定しているハードルは高いのだと、SGで話をするたびに思ったりする。何を信じるかは次郎次第だが、少なくとも自信をもって臨んでほしいぞ。
あと、2Rでは、西山貴浩がインコース2着。戻ってきた西山の顔は、悔しさのため顔が引きつっていた。いつものひょうきんな態度も皆無。そんな様子を感じ取ったか、師匠・川上剛も特に声をかけずにいた。ここで、9月10日発売のBOATBoyに掲載される西山インタビューのごく一部を抜粋して先行披露。
――レース後の悔しがり方を見ると、パフォーマンスのイメージとはギャップがありますよ。
西山 ああ、それは篠崎兄弟に負けたら悔しいだけであって。あと、峰竜太でしょ、岡崎恭裕でしょ、後藤翔之でしょ。それ以外は大丈夫です。顔がいいヤツと嫁が美人なヤツには負けたくないです。
言うまでもなく、この回答自体がパフォーマンスのようなものである。額面通りに受け取るなら、インで敗れて、その相手が篠崎仁志だった、だから悔しい、ということになるが、額面通りに受け取ると本質を見逃すだろう。今節の西山は一味違う。そんな感覚があるのだが、どうだろうか。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)