勝負駆けを1着でクリアする。最高の結果に違いないが、レース後の表情は一様ではない。
10R、3コースまくりを鮮やかに決めた田中信一郎は、ヘルメットの奥で柔らかな目つきになっていた。気分の良さが伝わってくる表情だ。そんな田中に、松井も笑顔でうなずく。田中はエンジン吊りを終えると、松井に向かって手刀を切ってみせた。大相撲で懸賞金を受け取るときのアレだ。これまた気分の良さが伝わる所作。見ているこちらまで気分が上がる。
11R、イン逃げで勝負駆けに成功した池田浩二は、ピットに戻ってきてすぐには、むしろ険しい表情をしているように見えた。エンジン吊りを終え、控室に戻る際には、何度か首をひねっている。勝ったはいいが、足色など、まだ満足できない部分が残ったということか。勝負駆け成功は、次なる戦いへの第一歩でもある。それを思えば、ただ喜んでばかりもいられないのは当然だ。
とはいえ、予選を突破できたことに関してはゴキゲンである。勝利者インタビューを終えた池田は、装着場へと下りていく階段の踊り場で「ヒラーッ」と声をあげた。装着場の対岸、選手控室前のバルコニーに平本真之の姿があったのだ。距離にして3~40mはあるだろうか。池田は平本に向かって、何かを問いかける。
対する平本、両手を水平にさーっとあげた。セーフ、だろうか。俺、予選突破だいじょうぶ? ってな問いかけだったのだろうか。平本のポーズを見た池田は、何度もうなずいてニカーッと笑う。得点率6・00の選手が何人もいて、ボーダーがどこになるのか見えにくかったから、念のために平本に問うたってところか。峰竜太がぶっ飛んできたドリーム戦から、よくここまでこぎつけたものだ。さすがである。
12Rを逃げ切って準優進出を決めた桐生順平は、ほとんど表情が変わらなかった。というか、エンジン吊りを手早く終えると、駆け足でカポック脱ぎ場に向かい、駆け足で勝利者インタビューに向かうなど、ちょっと急いでいる様子だったのだ。4日目12R組で準優進出の選手は、特に1着の選手は忙しい。勝利者インタビューにJLC展望のインタビューに着替えに……とやることはたくさんある。ただ今日は、2便出発後に展望インタビューを受ける準優組のために臨時3便が出ることになっていた。そんなに急がなくても大丈夫っすよ、桐生選手。まあ、別の意味もあったかもしれないが。昨日の不完走失格で勝負駆けを強いられた桐生だが、ドリーム1着時から足色は快調だった。きっちり準優に進んだ以上、センター枠からの攻撃力は大きな脅威となることだろう。
勝負駆け失敗の選手は、もちろんレース後の表情は一様ではないが、やはり落胆した様子は共通する。
たとえば、井口佳典は苦笑い連発で他の選手と絡んでいる。苦笑いはたしかに笑いではあるが、悔しさのあらわれでもある。井口は1着勝負と厳しい条件での3号艇。1号艇ならまだしも、まだ苦笑いであっても浮かぶ余裕はあったのかもしれない。
だから、1号艇で1着勝負駆けだった毒島誠は、やや硬直しているように見えた。苦笑いさえ浮かばない。1号艇、インコースだから勝てるという保証は何もないが、しかし希望はより大きくなるものだろう。それを奪われたことは、やはり悔しいし、屈辱でもあろう。毒島ほどの男だから、その屈辱は大きいだろうと想像する。表情が消えてしまうのも、わかるような気がする。
岡崎恭裕の落胆も非常に大きそうだった。エンジン吊りで操縦席の水分を吸い取っているのを待っている際、岡崎はボートのカウルに肘をかけ、ガックリとうなだれていた。今日の岡崎は、前半では前付けを見せ、後半も早いスタートではなかったものの、スリットでのぞく隊形を作り、予選突破への強い決意を感じさせる戦いぶりを見せている。しかし岡崎にとっては、それだけで終わってしまったのでは意味がないことになってしまう。まして、最も思い入れの深い福岡SGで予選落ちを喫してしまったことは、やはり屈辱でもあっただろう。あの落胆ぶりも、理解できるような気がする。
さてさて、篠崎兄弟が見事に勝負駆け成功。5Rで仁志が勝てば、6Rで元志が勝ち、9Rで仁志が2着に食い込めば、10Rで元志が2着に粘るという、見事にシンクロする足取りで予選突破を果たした。しかも、準優は同じレースですか! BOATBoy4月号では二人の対談を掲載しているが、そこで元志は「僕らはいきなりうまくいくってことがなくて、けっこう泥臭い。だから、もし二人でSG優出しても、きっと2着3着とかじゃないか」という旨を話していた。ということは、初のSG準優でも2着3着とか? いえいえ、ファンが期待するのはやっぱり兄弟優出だ。1号艇の石野貴之はあまりにも強敵だが、少しは夢を見ながら二人の戦いに注視したい。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)