BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

最強の49歳

12R優勝戦
①前本泰和(広島)07
②菊地孝平(静岡)10
③湯川浩司(大阪)09
④白井英治(山口)02
⑤峰 竜太(佐賀)08
⑥松井 繁(大阪)16

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 前本がインからガッチリと逃げきった。百戦錬磨の経験則をフル稼働した、「SGの中のSG」の覇者に相応しいイン逃げだった。
 進入隊形は、キーマン松井がまったく動かず穏やかな枠なり3対3。9R後の特訓もスタート展示も同じ隊形だったので、6人ともにリハーサル通りに踏み込める。ならば、2コースの韋駄天・菊地がトップスタートかと思いきや、さすがにSGファイナルとあってコンマ10まで自重した。

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 代わってキワのキワまで踏み込んだのは、4カドの白井だった。ここ一番のホワイトシャークには、いつだってコレがある。菊地が理詰めの天才スターターとするなら、白井は野生というか、本能で突っ込むタイプだ。
 白井が覗いた瞬間、スタンドの観衆はどっとどよめいたが、残念ながら今節の白井にはここから自力で攻めきるだけの直線足はない。むしろ、スロー発進の前本と菊地がグングン伸び返し、1マークの手前では白井よりも1艇身近く抜け出していた。恐るべきパワー差。

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 そして、勝負の分岐点はその直後だ。内2艇がぴったり舳先を揃えて1マークに向かう中、外の菊地がやおら握って前本に襲い掛かる。
 そっちかっ!!
 菊地に◎を打って「同じような確率で差しもまくりもありえる」と踏んでいた私は、より過激なB面作戦に目が釘付けになった。しかもそれは、私が予想していたよりかなり早い仕掛けで、前本に油断があれば一気に引き波に嵌めそうなタイミングに思えた(もちろん、早仕掛けだけにツケマイが決まっても誰かしらに差されるリスクのある戦法ではあった)。

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 だが、その早い初動の瞬間、前本はしっかりと菊地の動きを目視した。ほんのコンマ1秒ほどヘルメットが右に揺らぎ、揺らいだと同時にレバーを握り込んでいた。両者の息が合う。合わせたのは前本。通常の足合わせの何十倍もの迫力で旋回したふたりのうち、菊地だけが遠心力に従って外へと流れた。それは昨夜から私が脳内で描いた1マークに似てはいたが、ターンの初動もスピードも迫力も、すべて凌駕していた。

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 ターンの出口で前本がまっすぐに突き進み、菊地が斜め右へと流れ去った瞬間、前本の7年半ぶり2度目のSG戴冠が決まったと言っていいだろう。前本の迎撃ターンも誰かしらに差されるリスクを伴っていたが、実際に差した白井や湯川よりも前本のほうが力強く出て行ったから。初日からスリット足が突出していた21号機は、5日後に全部の足が強力な超抜機として他の5艇を置き去りにした。

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 余談だが、2連率31%の21号機の大活躍はなかなかにサプライズで、「手前に寄せても伸びまくる不思議なパワー」と評するしかなかった。2節前の地元・金田幸子(優出4着)は確かに上位級の足色だったけど、まさかSGで頂点まで昇り詰めるとは……そうそう、初下ろしの「3Daysバトルトーナメント」では若手の末永祐輝の手に渡ったが勝ちきれず、最終戦では「思い出を作って帰ります!」などと語って超伸び型に特化。チルトMAXに跳ねたりしたものだが、その前から伸び足はトップ級ではあった。その末永は4着でいい思い出を作れなかった代わりに、前本がこの21号機でとびっきりでっかい思い出を作ったわけだ(笑)。

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 とにもかくにも、今日の1マークでの菊地に対する迎撃戦は天晴れの一語。私の近くにいたオッサンも「菊地が握ったけど、前本のブロックが巧かったわ。ほんま、ようブロックできたなぁ」としみじみ語っていたものだ。ここ11年前に8・55という半端ない期間勝率を叩き出した男は、49歳になった今も恐ろしいほど強い。そう思わせるに充分すぎるシリーズであり優勝戦であり、あの1マークの攻防だった。(photos/シギー中尾、text/畠山)