BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――リスペクトがあるから

「お祭りみたいな番組を組みますよね~」
 菅章哉が含み笑いをしながら呟いてきた。自身が出走する10Rの話だ。前付け必至の西島義則。チルト3度に跳ねる菅章哉。その真ん中に人気者・西山貴浩。「もし撮れたら、西島、西山、菅の並びのボート、撮ってくださいよ~」とリクエストしてきたわけだが、この組み合わせは本人的にも面白いと感じたのだろう。結果を言えば、6号艇の秋山直之が“後付け”で6コースにへばりつき、菅をマークするという策に出た。それも含めて、なんとも妙味たっぷりな番組ではあった。宮島の番組さん、菅もご満悦のようです(笑)。

 その菅と、4号艇の西山貴浩は、選手紹介で絡みがあったように、ウマが合うような。前半のピット記事ではレース直前の選手たちの緊張感を書き、西山の真剣な表情にも触れたわけだが、10Rが間近に迫った頃、西山と菅は水面際の岸壁にすわって談笑を始めていた。9R発売中に帰宿の1便が出発し、やや閑散とし始めていたピットに、ふたりの笑い声が何度か響いていた。前半に書いていた様子とずいぶん違うじゃないか、というふうにも見えるのだが、これは緊張をほぐそうとしている光景とも思えるわけである。西山の目元は明らかに笑いの度合いが薄くなっているのだ。内容はどうやらまさしく雑談といったもののようだったが、あえてボートの話から外れることで、心を落ち着かそうとする。そんな様子にも見えたのである。
 で、対戦相手がレース前に仲良くしていていいのか、と思われるかもしれないが、レースをご覧いただいたのならおわかりのとおり、5コースから伸びる菅に徹底抗戦したのはすぐ隣の西山だった。水面ではガチンコ勝負を繰り広げたのだ。信頼関係があり、尊敬する思いがあるから、レースはより激しくなるという側面があるわけだ。

「なんか回ってきたよ」
 調整の甲斐あって回転が上がってきた、という意味だと思われるが、これを口にしたのは白井英治。その相手はというと、瓜生正義なのだった。瓜生は76期、白井は80期。白井、先輩にタメ口かーい! それを見ていたキャスターの高尾晶子さんがすかさず唸った。「尊敬する心があるから、タメ口になるんだよねえ」。同感。期や年齢がまあまあ近い二人であるが、それでも若手の時は白井も完全敬語だったと思われる。しかし、SGや記念で20年も剣を交え合い、お互いの力量を認め、またピットや宿舎でも顔を合わせて同じ空間で過ごしているうちに、自然とリスペクトは生まれる。それが気安い間柄を作り上げるのは間違いないだろう。文字通り命を懸けて戦っている戦友のような感覚もあるか。ちなみに、白井はワタシにもタメ口で、クロちゃんと呼びます。ワタシは8歳年上なのだが、尊敬がある……のかな? まあ、この業界で仕事を始めたのはワタシのほうが後なので、白井はパイセンではあるな。というか、その対応こそが嬉しいんですが。

 そうそう。1便で帰る選手たちは装着場の真ん中に集合し、点呼を受けて宿舎に向かうのだが(徒歩移動)、その集合場所に肩を並べて向かっていたのが左から江口晃生、田頭実、深川真二。うおー、チーム前付け! 3人はめっちゃ楽しそうに笑顔を浮かべて、何か話しながらゆっくりと集合場所へと歩を進めていたのだった。ほんの短時間しかこの絡みを見ることはできなかったが、口数が最も多いのは江口のようだった。先輩の言葉をおかしそうに聞きながら笑う田頭と深川。いや~、ほっこりしました。進入は激しく、陸では穏やかに。ワタシは彼らを徹底的にリスペクトします。

 さて、10R発売中、最後まで試運転をしていた二人が水面に上がった。丸野一樹と實森美祐だ。實森は旋回練習を兼ねての試運転という部分はあったと思われるが、丸野は足色が厳しい。ペラ調整と試運転をひたすら繰り返していたわけで、底上げが急務というわけだ。實森と足合わせしたのかな? エース機との足合わせで、さらに気分が沈んでやしないだろうか。なにしろ、着替えを終えてモーター格納に向かう丸野は、疲労困憊の様子だったのだ。すれ違う際にこちらの顔を見ると、もう苦笑い連発。少なくとも今日の段階ではあまり良化していないということではないかと察したのだが、どうか。日々マルトレで鍛えている丸野がへとへとになっているのだ。本当に今日は乗りまくり、叩きまくりだったんだろう。マルちゃん、お疲れ様。明日は12R1回乗り、時間はたっぷりあるから、明日も調整と試運転、頑張って!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)