BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――2日目午後の明と暗

 9R、西山貴浩が逃げ切り。ピットに戻って、さぞ賑やかだっただろうと想像するかもしれないが、さにあらず。ヘルメットをとるとあらわれたのは、笑顔ではなく歯を食いしばったような表情で、「俺は逃げたぞ!」と叫んでいるかのような顔つきだった。闘志あふれる表情、ということだ。ここで大敗すれば予選突破は厳しくなる、というなかで、最強の気合を込めて白いカポックを着た。結果を出した会心をとことん表に出す、どこか野獣のようなたたずまいであった。これもまた、西山貴浩のひとつの側面である。
 とはいえ、勝利者インタビューでは額に「CK」とマジックで書き込んで登場するという、西山らしさも見せている。CKとはC&Kというボーカルグループだそうで、お世話になっているんだとか。インタビューが終わるとすぐにタオルで拭いたのだが、マジックがそう簡単に落ちるわけがなく、うっすらCKと額に残ったまま控室に戻っていく西山はお茶目だった。控室に戻って、きっと仲間に笑われたことだろう。

 このレースで3着だった守屋美穂は、深谷知博との競り合いを制して入着を果たしている。足色上位と見える深谷と真っ向から斬り合って、3着とはいえ先着を果たしたのだから、こちらもまたレース後は充実感が漂う、逞しい表情を見せている。勝負師らしさがキュートさを上回っていたのだ。それでも、深谷とレースを振り返り合う際には、守屋らしい笑顔も見せていた。深谷としては悔しいには違いないが、その感想戦の様子は実にSGらしいものに見えていた。

 10Rは中野次郎が3コースまくりを決めた。好モーターを引きながら冴えずに終わった初日。今日は2着1着で、見事に巻き返しに成功した格好だ。中野は、あるいは出迎えた仲間たちも、レース後は終始笑顔なし。といっても、もちろん重苦しいものがあるわけがなく、むしろ中野はすぐ次にレースがあるかのように、頬を引き締めたまま、エンジン吊りなどの作業を終えたのである。つまり、これもまた会心の一撃だったということだ。こういう次郎さんを見ると、改めてイケメンだと思いましたね。あまりSGでこういう表情の中野を見ることが最近はなかったから、なかなか感慨深いものがありました。

 対照的だったのは篠崎仁志。おそらく自分に対してといったところであろうが、憤っているかのように不機嫌そうな目つきでピットに上がり、そして控室へと戻っている。福岡水面への思い入れは言うまでもなく今節屈指であり、初日はイン逃げで好発進を決め、悲願の地元SG制覇を見据えられたはずだ。しかし、この大敗は外枠だったとはいえ、戦線においては一歩後退を強いられるもの。ピリピリ感が増して当然だろう。これがかえって、明日以降の闘志を高めるのなら、さらに激しい仁志を見ることにつながるのだろう。

 かなり気分を落としているように見えたのは、8R6着の丸野一樹。こちらも初日に1着発進、SGで勝つことの喜びを実感していたわけだが、今日は一転、SGで敗れることの悔しさの大きさを味わうことになってしまった。レース直後は疲れ果てたような表情だったが、着替えを終えてモーター格納作業のためピットにあらわれたときにも、様子はほとんど変わらなかった。落胆がアリアリと伝わってきたのである。これもまたSGで味わう痛みであり、丸野はそれを改めて思い出したことだろう。丸野もまた、明日からはさらにさらに闘志をマックスへと高めていってもらいたい。

 それにしても、今日の午後のピットは低温サウナのようであった。ムシムシと暑く、立っているだけで腕や手の甲から汗が滴る。着衣が汗を吸っていくのがはっきりと実感できる、不快指数満点の気候であった。そんななか、レース後にも試運転をし、屋外の調整所でペラを叩き、きびきびと係留所へ駆け下りてまた水面へと出ていく宮地元輝。今日は5Rで1着を獲っているというのに、今のところオール3連対だというのに、感触がいまひとつなのだろう、この暑さなどまるで関係ないとばかりに、駆け続けるのである。こちとらアロハ一枚なのに、水面に出るのだから長袖着用。ケブラーズボンも乗艇着の下には履いていて、水面に出るときはさらにヘルメットとカポックである。うーん、暑いのなんだのと言ってたら選手に失礼かも、ですね。なお、10R発売中にはほかに今垣光太郎、平本真之も試運転で走っていた。今垣は1R1回乗りだったのに、この時間まで! 明日はこの努力が結果につながることを祈ります。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)