●勝っても弛まず
4Rでイン逃げを決めた丸野一樹は、もちろん安堵の思いはあっただろうが、その後も調整と試運転に励んだ。まるで気を緩めることなく、明日以降の戦いに思いを馳せてパワーアップをはかったのだ。
試運転に向かう丸野がニコニコと歩み寄ってきたので、ナイスイン逃げ、と称える。すると丸野はこう言った。
「とりあえず、ひとつ勝てました」
まだまだ勝つ気マンマンだし、喜びに浸ってもいないし、もっともっと上を狙っているのがありありとわかる一言である。ヤングダービーの出始めの頃からよく話をしてきて、今の丸野は本当に逞しくなっているな、と実感した次第であります。地位が人を作るとよくいうけれども、グランプリファイナリストとなった丸野はまさにそれを体現している。
●いいからいいから
羽野直也が一人、ぽつねんとボートリフトにたたずんでいた。何事かと思ったが、モーター架台を手にしており、どうやら先輩が試運転から上がってくるのを待ち構えているらしい。すぐさまエンジン吊りをヘルプしようという算段だろう。羽野が待っている相手って誰だろう……と思ったら、これがなんと白井英治! 他支部の選手をわざわざ待機していたわけですか。ちょっと驚いた。
白井は6R1回乗りだったが、4着に終わっている。機力には納得がいくわけもなく、その後は遅くまで試運転を繰り返していたという次第。結局切り上げたのは10R発売中だったのだが、白井がここまで粘って水面に出ているのは珍しいように思う。必死さが伝わってくるし、明日からの巻き返しに意を強くしているのは明らかである。
で、エンジン吊りには盟友の寺田祥も駆け付け、さらには前田将太も加わった。そして、渡邉和将も。9R1着の水神祭が終わったばかりというタイミングで、渡邉はちょうど動画撮影などに応じていたところ。白井が上がってくるのを見るや、渡邉は大急ぎでヘルプ。言うまでもなく、そのときの渡邉はズブ濡れなのである!
その姿を見た白井は、さすがに「おい、いいからいいから。着替えに行け」と渡邉を気遣った。でも渡邉は大丈夫っすとばかりにむしろ率先してエンジンを吊る。今日も気温はそれほど下がってなかったし、嬉しいズブ濡れだから、寒さも感じなかっただろう。でも風呂でしっかり温まって、風邪などひかないようにね!
●突如、豪雨
水神祭の記事にも書いたように、渡邉がドボンと水面に落ちた瞬間に落ち始めた雨。最初はぽつりぽつりだったのだが、10R締切10分前くらいだろうか、突如激しく降ってきた! 本降りというより、まさに豪雨! 激しく打ちつける雨で水面は波立ち、視界も悪くなっていた。今日は雨予報が出ていたわけだが、ここまでの雨とは! そのとき、係留所では濱野谷憲吾が調整作業中。急な豪雨にビックリしただろうが、それでもかまわず調整に励む濱野谷であった。
待機室前に目をやると、10R3号艇の原田幸哉が勝負服を着込んで水面をじーっと眺めていた。出走の直前にこんな雨が降って来るとはツイていない。雨に煙る水面を見ながら、地元のエースは何を思っていたのか。結果はまさかの6着。ツイてない……。
●同情するなら金をくれ
その10R、最後3番手大接戦になったのが西山貴浩と上條暢嵩。僅差で西山が先着したのだが、ピットに戻るとさすがに疲れた表情を見せていた。なにしろ3周目バックでは押し合い圧し合いの大激戦。なんとか3着をもぎ取ったものの、追い上げられての接戦だから、疲労度は西山のほうが大きかったかも。
その道中で多少の接触もあったのか、上條が西山のもとに歩み寄って、「最後すみませんでした」と頭を下げた。すると、西山は途端に右腕を押さえて痛がる素振り。まあ、本当に痛かったのかもしれないけど、あまりに急じゃない? さらに頭を下げる上條に、西山は腕を押さえながら手のひらを上に向けて上條に差し出した。詫びはいらんから金をくれ、ってこと? まったくもう……。ようするに、ノーサイドということです(笑)。
(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)