最終日ともなると、ピットの空気はぐっとリラックス度が増す。まだレースは残っているので、その準備は誰もが怠りなく行なってはいるが、大半の選手は勝ち上がりのレースに参戦するわけではなく、またレースが終われば家に帰れるということもあって、ピリピリした雰囲気はかなり薄くなっているものだ。
だから、昨日最も悔しさを味わった磯部誠ともわりと気楽に話ができたりする。一夜明けても、もちろんまだ悔しさは消えない。あの隊形じゃしょうがないよね、なんて慰めても、磯部はうなずきながらもそこだけに話を収めようとはしない。同時に、前を向こうとする力強さもたたえ始めている。昨日から多くの選手に声をかけられたそうだ。それは自分が今回どんなポジションに立っていたかを改めて認識することになっただろう。それは確実に、気の持ちようを変えるはずだ。そう遠くないうちに、きっと雪辱の機会は訪れる。そう思った。
レースのことを話しながらも、くだけた話に発展したりもした。最終日の雰囲気が、そんな方向に話をもっていったりもするわけだ。磯部も僕もサッポロ赤星のファン。ということで、「あれは美味いよね~」とか。磯部と別れると、西山貴浩がやって来た。「黒須田さん、いつ黒崎に来るんですかっ!」というわけで、黒崎の名店・エビス屋昼夜食堂談義。うむ、西山とは最初から酒の話になったか(笑)。毎節の恒例ではありますが。
そうした空気のなかで、優勝戦出場の6人は牙を研いでいる。言うまでもなく、彼らが醸し出す雰囲気はやはりちょっと違っている。特に、SG初優出となった村松修二と平高奈菜にはそれを強く感じる。ふたりともプロペラ調整に取り組み(まだゲージを当てている段階のようだったが)、村松はいわゆる新兵仕事などもこなしていたが、昨日までとは違った緊張感がどうしたって伝わってくる。これはこちらの先入観だとは思わない。また、いつもと違う緊張を味わって当然だ。村松は地元SGでの優出、平高は遠藤エミに次いでの女子4人目のSG優出なのだし。
経験豊富な他の4人に関しては、まだそこまで緊張が高まっているようには見えない。石野貴之は朝から整備。それを目撃した原田幸哉がからかうように声をかける。
「もう、欲を出しちゃって~っ!」
「締めまくり行かなきゃいかんな!」
3号艇・原田。4号艇・石野。心安い二人の気楽な会話ではある。でもこれも駆け引きになっちゃってます?
石野はその後、試運転に出ている。おそらくは伸びに特化した調整。同県の秦英悟と足合わせもしていたが、感触はどうだろうか。
篠崎元志はプロペラ調整。彼もこの空気には慣れたものだろう。すべてのレースを終えた仲間のモーター格納作業をヘルプする姿もあり、柔らかな笑顔を見せている。そして、白井英治はまだ調整らしい調整を始めていなかった。これはまさに彼のマイペース。優勝戦の日に早い時間帯からあくせく動いているのはまず見たことがない。いつも通りに時間を過ごしながら、闘志を高めていくことだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)