BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――おめでとう!

 レース開始前から吹いていた強い向かい風は、ファイナルの時間帯になってもやまず、むしろ時に強く水面に吹きつけていた。ピットに掲げられている風向風速をあらわすデジタルの文字盤は、風速6~7mを行ったり来たりしながら、瞬間的に10mを超えたりもしていた。百戦錬磨のベテランならいざ知らず、デビュー3年半ほどの若者にとっては、決して簡単な水面ではないはずで、それは文字通り、勝利への向かい風になるのではないかと思われたものだ。

 しかし、その若者はやってのけた。安定板が着いてもビクともしなかった1号機のパワー。いや、もしかしたら素性がいい分だけ、他よりもアドバンテージになっていたか。先輩の森永淳のアドバイスも受けながら、仕上げ切ったという今日の1号機。彼の主武器とも言えるまくり差しが先に回った和田兼輔のふところを捉えたとき、その快パワーに誰もが震えたはずだ。そして、そのパワーを活かすだけの鋭い旋回を繰り出すことができたその若者の強さ、速さ、巧さ、度胸、さらには将来性までをも、強く実感したはずだ。

 末永和也、デビュー初優勝おめでとう!
 そう、これが末永にとって、初めてシリーズの頂点に立った瞬間である。たった3日間のシリーズと言うかもしれないが、たとえば一般戦やルーキーシリーズとは密度が違う。勝利を掴むためには、常に運と向き合うことが必要にはなるが、このシリーズは特別に運が大きく左右もする。運を味方につけるだけのものを“持ってる”かどうかも、重要なカギなのだ。そんな戦いを、自身の初めての優勝としたのだから、この男はタダモノではない。正直なところ、この3日間を締めくくる最後に水神祭を目撃することになろうとは、戦前は考えもしていなかったのだ。

 あのヤングダービーはたった15日前のことである。2番手を走りながら、まさかの3周2マークでの転覆。それは勝利をもぎ取ろうとしたがゆえの失敗だったけれども、それでも末永は心を深く傷つけた。モーター返納を終え、報道陣にコメントを求められながら涙を流していた姿は、あまりにも鮮明な記憶だ。末永はあのとき、まさに挫けていた。本人もそう言っている。だが、多くの励ましを受け、その失敗と徹底的に向き合い、それを大きな糧として、末永は今日、大きな大きな勝利を掴んだ。ヤングダービーはプレミアムGⅠ、こちらは一般戦だが、その価値に違いなどない。いや、ある意味では、ホンモノの実力者たちがずらり居並ぶバトルトーナメントは、最優秀新人の対象であるキャリアの選手にとっては難易度がはるかに高いかもしれない。あの涙から2週間を経て、末永は今日、ビッグスマイルを見せた! その笑顔の意義はとことん深いものである。

 あの涙を見ていたから、もしかしたら今日は違う意味の熱い涙が見られるかとも思ったりしてたのだが、その期待はいい意味で裏切られたと言える。そう、末永が本当に目指すものはまだまだ先にある。ごくごく月並みな言い方になってしまうが、初優勝は単なる通過点だ。ただ、その通過点が強烈な意味を持つ戦いだったというだけだ。だから、今日の笑顔はとことん爽快だった。ウィニングランでファンの反応を見ながら泣きそうになったと表彰式では言っていたが、その涙はさらに重要な戦いにまでとっておこう。

 表彰式はピット内の特設会場で行なわれたが、だから選手たちも後方で見守るという特異な表彰式ともなっていた。司会の荻野滋夫さんが西山貴浩の名前を出すものだから、西山はヤジを飛ばしたりもしている。別の意味でも、末永には深く記憶に残る表彰式になったかもしれない。そう、今節最年少の若者のセレモニーは、大先輩たちが見つめていたのだ。実を言えば、水神祭の待機という意味もあったわけだが、新兵の末永としてはちょっと恐縮もするよね。

 というわけで、選手班長の山一鉄也をはじめとする九州勢を中心に、多くの先輩たちが待ち構えるなか、表彰式から猛ダッシュで会場に駆け付けた末永。さあ行こう、水神祭!
 佐賀支部の森永淳、小芦るり華も靴を脱いで飛び込む構え。森永は「温かい日がよかった~」と気温20℃を切る気候を呪ったりもしていたわけだが(笑)、しかし森永も小芦も嬉しそうだ。
 自分は何もしないくせに、「はい、腕持ち上げて。はい、足持ち上げて。はい行きましょう。1、2、3!」となぜか仕切る西山貴浩の号令で、末永をドボン! もちろん森永も小芦も飛び込んで(いや、森永は誰かに押されたらしく「押したの誰だあああ!」と絶好。飛び込む気マンマンだったくせに・笑)、冷たい風が強く吹く水面で、佐賀勢が大輪の笑顔を見せたのであった。

 末永和也、本当におめでとう! 今後も水神祭に立ち会う可能性は十二分にあると思いますが、初優勝に立ち会えて僕も嬉しかったです。またビッグのピットで会いましょう!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)

 1号艇の和田兼輔はさすがに悔しそうな顔をのぞかせていました。この花火、自分のために打ち上げてもらいたかったところなのに……。無念!

 白井英治もやはり渋い表情……。

 田村は逆転の2着。敗者のなかではやや表情が柔らかくも見えました。