BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――展開の綾

 2R1号艇の羽野直也がインからスタートで後手を踏み、のぞいた柳沢一が締め込みに行っている。しかし羽野は伸び返して抵抗。両者が艇を合わせながら、一瞬競る格好となった。羽野はなんとか先マイに持ち込み、柳沢は差しに転じて2着。羽野は追い上げて3着には浮上したが、両者の勝ち負けはスリットの時点、あるいは1マークまでの攻防でほぼ決まっていたということになるだろう。
 鳴門のボートリフトは2艇しか乗れないので、レース後はまず1着、2着が上がって、その後に3着と4着、最後に5着と6着が原則(さまざまな理由で入れ替わることはある)。というわけで、柳沢は最初に陸に上がってきて、エンジン吊りも早々に終わったのだが、控室には戻らず、そのままリフトへと駆け出している。

 次に姿をあらわしたとき、柳沢は羽野と並んで装着場へ。柳沢が軽く頭を下げ、それに羽野が深く下げ返すという場面が見られた。つまり柳沢は、何よりもまず、30期近くも後輩の羽野に礼を尽くしに向かったのだ。接触もあったことで、羽野を気遣ったということだろう。もちろんこれはレースの綾であって、柳沢が締めに行ったこともごく真っ当な戦法。禍根など残るわけもなく、その後は少しばかり会話を交わしているのだった。おそらくその場面についての感想戦といったところだろう。

 両者の攻防を見据えて一気にまくって出たのが3コースの山口剛。1マーク手前では羽野も柳沢もレバーを落とし、そこを見逃さずに握って交わし去ったのだ。お見事なツケマイである。これもまた展開の綾であり、きっちりモノにした山口はさすがの一語。会心の勝利に、山口の目元には終始、笑みが貼りついているのであった。

 3Rは、稲田浩二が5コースからのまくり一撃。まさにイナダッシュ! 彼らしい勝利に、ピットは一瞬ざわついている。ピットに戻った稲田は、笑顔もなく、ひたすら淡々とした様子。これもまた彼らしいレース後だ。ほんと、感情を見せないんだよなあ。賞金ランク21位の稲田は、2日目まではオール5着。逆転グランプリ行きに苦しい情勢となっていたが、これで先が少し明るくなった。もっとも、グランプリが懸かっているとかどうとか、そういうのもピットで見る限り、まったく心中を見せない稲田なのである。本当は気合パンパンなのかもしれないけど、ほんと、そういうのがうかがえないんです。

 桐生順平が巧みな立ち回りで2着となったが、レース後の桐生は疲労感いっぱいの様子であった。まくられたことも悔しかっただろうし、それをなんとか2番手争いで残し、その競り合いに神経を使わなければならなかっただろうし、簡単なレースでなかったのはたしかだ。ここまでスッキリした展開のレースにはなっていないことが、ある種のストレスとなっているのかもしれない。7Rは彼らしい爽快なレースとなるだろうか。

 女子では、1Rで香川素子が転覆。着替えを終えて装着場にあらわれると、次々に「大丈夫?」と案じる声をかけられている。香川はそのたびに微笑で返し、身体には問題はないようだ。ただし痛恨は痛恨で、また9Rに後半を控えているので、転覆整備に忙しそうでもあった。責任外ではあったが、ポイント制で上位6人しか予選を突破できないレディースチャレンジカップだけに、後半では巻き返したいところだろう。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)