BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――王者の笑顔

 苦笑いの嵐、といったところだった。優勝戦後の敗者たちの様子だ。ビッグの優勝戦で、これだけ一様に敗者たちが苦笑しているというシーンはあまり記憶にない。わりとサバサバとした選手が多いことはこれまでにもあったが、特にSGの優勝戦後というのはもっと複雑な空気が漂うもの。SGクラスが一堂に会し、プレミアムと冠されてはいるが、GⅠであること。トーナメント形式という特殊な大会であること。無粋なことを言えば賞金的なこと。そんなことも関係したりしているのだろうか。

 そんななかで、丸野一樹はやはり、かなり悔恨が濃厚な苦笑いではあった。ディフェンディングチャンピオンであり、地元戦であり、渾身の差しが届きそうで届かなかったという展開であり、準Vであり。悔しさがつのる条件は、丸野に揃っていた。勝者以外の他の選手に頭を下げて回る間も、苦笑は消えない。

 ただ、同じ近畿地区で1期違い、盟友というべき上條暢嵩とは健闘を称え合うかのように大きくうなずき合い、少しだけ表情は緩やかになった。偉大なる先輩に一矢報いることがかなわなかった、そんな思いが共有されていたのかもしれない。

 池田浩二は、頭をくしゃくしゃとかいてみせてもいた。6コースからの戦いはやはり厳しかったか。3着は上々とも言えるわけだが、しかしそうは思えないからこその苦笑い。

 桐生順平と深谷知博は、顔を見合わせて苦笑いを交わした。その表情のまま、会話を交わす。隣同士のコースで、レースの感想を語り合っていたか。とにかくインが優位という今日の、あるいは今節の流れのなか、外枠同士通じ合うものはあったかも。
 とにかく、繰り返すが、そこには苦笑いが渦巻いていた。王者がトップスタートを決めて先マイしてほぼ完璧といっていい勝利。もう苦笑いしか出ない、という面もあったのだろう。

 そう、松井繁はまさに完勝。丸野の差しが迫りはしたが、また丸野も諦めずに追いかけたが、結果、寄せ付けなかった。4代目BBCチャンプ! そして、3Daysも6年前に優勝しているから、紛れもないトーナメントキング! というわけで、敗者たちの苦笑いとは対照的に、松井は爽快で、渋みもあって、風格をたたえる笑顔を満開にさせていたのだった。ビッグ優勝戦後に、王者のこんな表情を見るのは久しぶりだ。そして、この笑顔を僕は待っていたのだと痛感したのだった。さらに言えば、それをやっぱりSGで見たい!

 松井自身は会見で、「GⅠと思って走っていたら、SGみたいな感じやったね。それを味わえたのはよかった」と語っている。たしかにプレミアムGⅠは、さまざまな儀式だったりファンや報道陣の捉え方だったり、いろんな面でSGに近いところがある。勝って凱旋してみたら、それを松井も感じて、さらに笑顔が深まったのかもしれない。それでもやっぱり、SGでこそ、また見たいよなあ。会見で「年行ってから獲るってことをしたいと思ってる」とも言っていたし。そう、松井の王者の魂は少しも衰えていない!

 ウィニングランから戻ってきた松井は、さらに風格を漂わせていた。出迎えたのは石野貴之に鎌倉涼。ビッグ優勝戦後によくある、ハイタッチなどの大騒ぎはまったく見られず、石野も鎌倉も笑顔で「おめでとうございます」と頭を下げるのみ。そりゃあ、王者だもんなあ。普段仲良く過ごしていたとしても、大はしゃぎで称えるようなことは起こりえないのだろう。そして、後輩たちの祝福に、やはり笑顔を浮かべながら、軽快に「ありがとう」と返す姿が、やっぱりもう「王者」なのだ。

 うーん、こちらも王者の風格に完全にやられちゃいましたな。そしてそれがまたなんだか嬉しいという。さらに言えば、松井がビッグレースで改めて強さを見せつけたことで、後輩たちの意気も上がらなければおかしい。打倒王者、と言ってしまうと軽くなってしまうが、松井の強さを目の当たりにして奮い立てば、これからもボートレースはさらにコクを増していくだろう。その予感を覚えることができたことがまた嬉しい。王者の風格あふれる笑顔は、やっぱりなんだかテンションを上げてくれますね。今年のボートレースも熱くなりそうだぞ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)