BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

機力の彼方へ

12R優勝戦
①磯部 誠(愛知)15
②石野貴之(大阪)16
③平本真之(愛知)15
④坪井康晴(静岡)09
⑤池田浩二(愛知)07
⑥茅原悠紀(岡山)11

 発売〆切の2分前に1マーク近辺に辿り着いた私は、この大一番をまともに見ることができなかった。
 人、人、人、人、人。
 被りつきの水面際はもちろん、徳山ならではの2階と3階のバルコニーもそこに辿り着く通路も、人人人でごった返していた。その平均年齢はざっと30台。もっと言うと大半が20代の若者で、あとは私のごとき年配者まで満遍なく散らばってる感じ。ここ何年かで、ボートレースが若者に根づいた。コロナ明けのスタンドで、それを再認識することができた。

「いそべ、頼む、家賃だけでも稼がせてくれーーー!!」
「いしのーー、お前が負けたら嫁に怒られるんだよーー!」
 思い思いの若者の叫びが爆笑を呼びつつ、SG優勝戦のファンファーレが微かに聞こえてきた。遠目で並びが枠なり3対3くらいは分かるが、あとはさっぱり。徳山には対岸モニターがないから、スタートの凹凸も分からない。6艇のモーター音がどんどん近づいてくるが、黒山の頭と頭の間から磯部と石野が微かに見える程度。

 1マーク。磯部が先に回って、石野が差して、その差しがはっきり届かなかったことが見てとれた。大歓声。おそらく私と同じ程度しか見えていないであろう多くの若者が、奇声を上げながら飛び跳ねる。みんな、あまり見えていないのに、お祭り騒ぎ。

 で、まったく異質の奇声があちこちから漏れたのは、磯部と石野が3周1マークを回った直後だ。前の周回では5艇身ほどはあったであろう両者の間隔が明らかに縮まり、しかも回ってからの石野の足色が半端ない。水面に近い目の錯覚も込み込みで、私の目には内の石野の舳先が完全に磯部を捕えきったように見えた。周辺の人々も同じ光景だろう。
 ぎゃあああぁぁ!
 みたいな絶叫の中で6艇はまた遠ざかり、観衆の全員が最終ターンマークに目を凝らす。外に開いて差した石野の舳先がはっきり入らない。そう判別できた瞬間、また大歓声。ひとりの若者が人と人との狭い間隙を、小走りで駆けながらジャンプした。若者はジャンプすると同時に、舟券を握りしめた右手を天高く突き上げ、「シャーーッ」と叫んだ。
 嗚呼、なんて若い。
 私は磯部のガッツポーズ(したかどうかも分からないw)の代わりに、その若者のガッツボーズに感動していた。水面のレースはほとんどまともに見れなかったけど、そんなこんなが妙に嬉しいし、妙にありがたいような気分だった。「初めての平成生まれのSGウイナー」という事象と、ぴったりオーバーラップする光景でもあった。
「いやーーー、石野、こえぇ、石野、こえぇぇぇ」
 レース直後、こう叫んだのも20歳くらいの若者だったな(笑)。

 さてさて。
 ボートレースは機力だけでは決着しない。
 そんな当たり前のことを、磯部誠という男から改めて教えてもらった。そう、今節の「機力」といえば、石野貴之56号機。これに尽きる。初日の3R、石野が2コースからジカまくり圧勝したときに、「うわ、また石野の優勝だ」という予感を抱いた。それくらい、すべての足色がピッカピカに輝いてみえた。

 そして、石野は私の予感を裏付けるように順調に得点を伸ばした。5コースで3着、4コースで2着、6コースで3着……スタートで無理するでもなく、1マークで強引に攻めたてるでもなく、道中でぐんぐん追い上げ追い抜くさまは、まさに節イチと呼ぶに相応しい超抜パワーだった。
 こりゃ11回目のSG、間違いないやん。

 予感が確信に変わった3日目あたり、機力的にほとんどノーマークだった選手の存在にやっと気づいた。6コースで3着、4コースで2着、3コースで2着……石野ほどの派手さはないが、的確な攻撃とポジショニングで石野に匹敵する着順を残す男。
 そして4日目7レース、予選のラストランで男はド派手な大技を決める。5コースから突出スタート、猛烈な絞めまくりで予選トップ確定! あの1着がSG初優勝の最大の分岐点だったと私は思っている。節イチ石野よりも予選順位が下位だったら、何もさせてもらえなかったはずだ。

 さらに翌日は、準優というハードルも突破した。磯部と聞くと何度もSG優出しているようだが、実は6日制のSGでは一度も準優の壁を超えていない。10度チャレンジして10度失敗、しかも悔しいだけの3着が5回。そんなトラウマになりそうなハードルも、コンマ04のトップスタートで跳ねのけた。
 そして、最後に立ちはだかったラスボス=石野56号機も、追いかけられながらギリギリで討伐した。私が初日の3Rで抱いた石野Vの確からしい予感を、磯部はすべてのスキルとアイテムを駆使して幻想へと変えた。磯部誠という男の確かな成長と、精神的な強さを、今節の私は勝手にライバル視しながら実感し続けた。(photos/シギー中尾、text/畠山)