BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――これぞ!

●11R

 出た、これが石野貴之の真骨頂! 4号艇、4カドが濃厚となったとき、多くのファンがこれを期待しただろう。ここ一番の一撃! まさに石野が得意とし、トライアルで何度も見せてきたスペシャルな走りだ。トライアル第3戦のドラマのいくつかは、石野がカドまくりで生み出している。それをここでも見せた! この時点では、12Rの茅原悠紀にプレッシャーをかける1着となっている。そう、優勝戦1号艇争いの。
 本当に、何度見たことか、トライアルで一撃を決めた後の最高の笑顔を! 今日もしてやったりの笑顔で、石野は引き上げてきた。その前、リフトにあと10mほどで辿り着くところで、左手を天に突き上げた。さらに、拍手で出迎える大阪勢に向かってガッツポーズ。スポットライトが当たっているのではないか、そう思えるほど石野は輝きまくっていた。これぞ石野貴之、それを見せつけた石野は、最高のメンタルで優勝戦に向かう。

 平本真之が2着に入って、こちらも優出当確。こうしたケースでは喜びを爆発させることも多い平本が、安堵したような表情を見せていたのが少々意外だった。平本も結果次第では優勝戦1号艇の可能性が残されており、それが石野の勝利によって消えたことも一因だったのか。ともかく、そこまで笑顔が大きくなかったのが印象的。それがどんな意味を持ってくるのかに注目したい。

 池田浩二が露骨に落胆していたのもまた印象深い。敗れてもおどけてみせることがあったりするのだが、エンジン吊りが終わった直後は一人、うなだれていたのである。その後は、森高一真らに声を掛けられて苦笑いも見せているが、やはり優勝戦1号艇の可能性を有していた池田である。この1号艇を落としたのは、隠しようもなく痛かったということだろう。優出はこの時点でもほぼ安全圏ではあったが、それを喜べる様子ではなかったのはたしかだ。

 今垣光太郎と片岡雅裕は敗退が決定。今垣は石野の外から狙いすましたまくり差しを放っていったが、前がつかえるようなかたちで後退。前付けに動かず石野の外を選択した戦略は間違っていなかっただけに、モノにできなかったのは悔しくてたまらなかっただろう。敗者のなかでは誰よりもわかりやすく、うなだれ、肩を落としていたのが今垣だった。片岡もやや表情がカタく、悔恨にまみれていたのは明らか。そのもやもやを晴らすためにも、来年もここに戻ってこなくてはならないだろう。

●12R

 峰竜太、快勝! ピット離れで磯部誠が遅れ、枠なりが崩れた進入ながら、きっちりと逃走。さまざまな思惑が各選手にあったはずだが、峰がしっかりと先に回ればすべてが粉砕される。これぞ峰竜太、だ。
 11Rの石野と同じような位置まで戻ると、出迎えた面々に向かって右手でアロハポーズ。しかしそれは決して力強いものではなく、まるで当たり前のように勝ち抜いたかのような、そんな自然さをたたえていた。これが優勝戦1号艇を手にする勝利だったのならまた様子は違ったのかもしれないが、まずは仕事をきっちりと果たしたのだという、ある種、強者の堂々たる素振りがそこにはあった。もちろん表情は笑顔なのだけれども、これも実に穏やかなもので、そこまでの高揚感は見当たらない。この自然体な雰囲気は、むしろ脅威に感じるのだがどうだろう。

 一方、勝てば優勝戦1号艇の目があった茅原悠紀はまさかの6着。それでも優勝戦に駒を進めたのだが、しかし一気に6号艇まで外に出ることになったのは、やはり痛恨だろう。それはグランプリを制した9年前と同じ枠だが、平和島と住之江では話が違う。控室には、優出を逃してしまった桐生順平と並んで向かっているが、その双方ともがやや痛々しい表情になっている。

 この12Rからもう一人優出を果たしたのは磯部誠。しかし先述の通り、ピット離れ遅れて4コースに出ることになったのは、とにかく悔やまれただろう。また、道中は馬場貴也との3番手競りになり、競り落とされてもいる。他の5人がエンジン吊り後にすぐさま控室へと向かったのに対し、磯部は一人リフト前に残って対岸のビジョンに映し出されるリプレイに見入った。なぜ競り負けたのか、1マークは何が悪かったのか、すぐさま確認しなければいられない。そしてそれが、悔恨を噛み締めることにもなる。優出うんぬんの前に、敗戦と向き合う磯部。明日優勝したとしても、今日の反省はきっと胸に残っていくのだろう。

 濱野谷憲吾が2着で、これが惜しくも次点ということになった。3コースを獲っての勝負だったが、峰の逃げには及ばなかった。濱野谷は控室に戻り際、出迎えた仲間に向かってよろめくような素振り。ようするに悔しさを、少しおどけて表現したものだったわけだが、しかし直後にヘルメットの奥の目がキッと険しくなった。勝って優出。それしか考えていなかったのだ。残念ながら、グランプリ最年長優勝は、今垣とともに、来年以降にお預けとなった。11Rの今垣といい、このレースの濱野谷といい、勝負駆けに敗れて気を紛らすすべを用いない様子は若々しく、まだまだ来年もSGのど真ん中で活躍するのだと信じられた。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)