BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――力強い表情

 11R。1着ゴールを果たし、リフトへと戻り着く前、小さく、しかし力強くガッツポーズを一発! 出迎えた西山貴浩、上條暢嵩が手を挙げて応えた。磯部誠、大きい逃げ切り!
 昨日の枠番抽選で1号艇を引いた時にも拳を握りしめていた磯部。それはここで逃げ切れなければ何の甲斐もないわけで、レース直前にはややカタくなっているようにも見えていた。5艇立てはインの利をやや減退させるとも言われるが、ものともせずに快勝。「1億1000万円」が少し近づいた勝利に、自然と喜びはあらわになるというものだ。控室へ戻るときには、同期の佐藤翼が寄り添っていたことを付け加えておく。

 2着は、茅原悠紀とのデッドヒートを制した池田浩二。愛知ワンツー決着だったわけだ。競り落とした相手が相手だから、2着とはいえゴキゲンだったレース後。なぜか上條に詰め寄る仕草を見せていて、ようするにじゃれついていったというわけである。明らかに気分が良さそう。昨日は転覆艇との接触があったが、その影響もなさそうだ。

 一方、茅原はといえば、表情をひとつも変えず、ただただ真っすぐ前を見据えて、足早に控室へと消えている。ここまで1着3着と来て、決して悪い成績ではないが、2着も充分あっただけに、気分は上がらない。それだけ、心底このグランプリに懸けているということだろう。

 着外となった片岡雅裕、桐生順平はともに悔しそうに顔をしかめていたが、桐生は控室へと向かう足取りが実に重く、この結果におおいに落胆しているようだった。結果だけではないか。ピット離れで茅原に出られて大外に回されているというのも屈辱だったかもしれない。それがシンガリ負けにつながってしまったのは、心に影を落とすことになって当然であろう。

 12R。2コースから差した峰竜太が攻めた平本真之らに上を超され、さらにずるっと滑った瞬間、スタンドから大きな悲鳴のような声があがり、それはピットにも大きく響いてきた。ボートリフトのあたりで見ていた選手たちもやはり、ああっと声をあげる。峰のシンガリまでの後退はやはり、ひとつの事件のようなものなのだろう。これで得点的にも後退してしまった峰は、珍しくやや力ない表情。平本真之とともに控室に戻りつつあるとき、「峰選手、競技本部へ」との指示アナウンスが流れ、小さく「はい」と言って駆け出している。痛恨のシンガリ負けだったことがありありと伝わってくる。

 一方、勝った石野貴之は実に力強い表情! 西山貴浩らと合流すると柔らかい笑顔を見せたが、しかし喜びというよりは充実感のほうがずっと前に出た顔つきであり、順調にだい2戦を運べたことへの達成感もまた胸を満たしているようだった。地元グランプリ制覇への視界がぐぐっと開けたことで、メンタルも仕上がってきている様子だ。

 馬場貴也が2着で意地を見せたことは、個人的には嬉しいことだった。やはりどこか落胆の色が見えていた今日、2着とはいえ好結果を出して見せたのだから、さすがと言うしかない。もっとも、この2着は優勝に近づく2着とは言えない。それもあるのか、あるいはまだ責任感に強く苛まれているのか、レース後の馬場はあまり元気がないように見えていた。立派な戦いぶりだったのだから、明日は気持ちを上向かせてほしい!

 身をよじっていたのは濱野谷憲吾。足は悪くなさそうなのに、結果につながらないじれったさはよくわかる。初戦5着に続く4着で、崖っぷちに立たされた格好。明日はファンタジスタらしい爽やかな表情を見せてほしいものだ。

 さて、枠番抽選。まずA組が引いたのだが、1号艇は峰竜太! 今日の大敗を巻き返すための絶好枠を引いて、峰は思わず「おおーっ」と目を丸くしている。

 一方、ガックリとうなだれ、テーブルに両手をついたのが桐生順平。勝負駆けだというのに6号艇……。昨日は5号艇を引き、2戦連続の外枠で、暗澹たる気持ちになるのは当然だろう。明日は黙って6コースはないような気がするが、果たして。

 B組では、池田浩二が1号艇を引いたが、穏やかに笑うのみ。石野貴之は4号艇で、微妙な表情だった。枠なりなら4カドだから、悪くない艇番とも思えるのだがどうか。

 そして、またしても外枠を引いてしまった今垣光太郎よ……。結局、今節はすべて外枠での戦い。しかも、6号艇は繰り上がりの菊地孝平と決まっていたのだから、最も外の艇番を引いたわけで、これは2日連続だ。もちろん望みが消えたわけではない。明日はここ一番の戦略を見せてほしい!

 シリーズ。9Rできっちりと2着を獲り切った毒島誠が、予選トップ通過を決めた。こちらを走る以上はもちろん優勝だけを狙って戦うわけだが、ここに来たときに頭に思い描いた場所ではないだけに、決して喜びを爆発させるというわけではなかった。仲のいい長田頼宗に声を掛けられて、淡い笑みが浮かんだ程度だった。
 とはいえ、これは昨年のリベンジを果たす権利を得た瞬間でもある。昨年も1stからシリーズに回って、予選トップ通過。優勝戦1号艇に乗った。しかし敗れた。去年と同じ流れで予選を終えた以上、今年は同じ轍を踏むわけにはいかない、そんな思いになるのが自然だ。ここからはさらに気を引き締めて臨むことになるだろう。

 この9Rでは守屋美穂が準優圏外へと陥落している。毒島の前付けに抵抗して勝負に出たが及ばず。レース後は長嶋万記が寄り添い、守屋は長嶋に時にハンドルを切る身振りをしながら、戦いを振り返っている。そしてまた、時に首を傾げて……。足は良かっただけに、活かし切れなかった悔しさが残る。その悔しさがさらに守屋を強くすることだろう。来年こそはSGでさらに上の結果を残したい。

 さて、トライアルへの繰り上がりは菊地孝平となった。10Rで勝負駆け実らずで決まった格好だが……菊地はカタい表情のまま控室に戻り、そのまま2便のバスに乗って宿舎へと戻ったのだった。その進境やいかに。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)