「今日はずっと吹くんですかね?」
背中から声を掛けられて振り返ると平山智加。“朝特訓”の頃には穏やかだった気候が、1R展示前に急変。雨が降り出し、これはすぐにあがったものの、風が強く吹き始めた。気温は昨日より高いのに、体感温度ははるかに低い。冷たい風がピットにも吹き込んでいたのだ。こちらも突然の強風には驚いたクチなので、その問いにはうまく応えられなかったが、平山は少し憂鬱そう。公開優出インタビューで進入を問われ「動きたいと思います」と宣言して場内を沸かせていた平山。だとするなら深い起こしになる可能性もあるだけに、強風はスタートを難しくする。浮かない顔も当然だ。
この風はさらに強くなっていき、2Rが終わって選手たちがピットに帰還する直前、係留所のボートに乗せてあったヘルメットが吹き飛んで水面に落ちるというハプニングも(誰のものかは確認できず)。これは實森美祐が即座に網で救い出して事なきを得たが、水面を見ればかなり波立っているのは明らかなのであった。
3Rが終わり、4Rの展示中だったか終わった頃だったか、ピットにアナウンスが流れた。「5Rより安定板装着」。その通達とともに、ピットは一気に慌ただしくなった。選手たちが次々と安定板を取りに整備室に駆け込んだのだ。なかでも、4R発売中にスタート特訓が行なわれる6R組は大変。特訓も装着して行なうよう指示されたので、大急ぎで作業しなければならなかったのである。松瀬弘美が叫びながら整備室に飛び込み、中谷朋子は「もう笑うしかない!」と言いながら係留所に向かう。うーん、優勝戦は板なしでやってほしいんだけどなあ。すでにボートを着水していた三浦永理も、安定板を手に自艇のもとに向った。これで調整をするとなると、風が収まっても板はついたままかも。
昨日までは序盤の時間帯はゆっくり過ごしていた遠藤エミは、今日は優勝戦組では一番乗りで着水している。2R発売中のことだ。係留所で回転調整を行ない、すぐにボートを陸に上げているが、昨日までとはまるで動きが違う。第3戦、1マークでサイドが掛からず流れ気味となって差された遠藤。ターンなのか調整なのか、若干の失敗があったわけで、今日はまずその解消をはかったということだろう。ただ、そのときはまだ板は着いておらず、また調整をやり直す必要があるかも……。
細川裕子は入念に安定板を選び、渡邉優美は安定板を布で磨いている。やっぱり綺麗なほうがいいんでしょうか。海野ゆかりはわりとさくっと選んで装着。そして平山は、アナウンスがかかった頃に着水しようとボートをリフトまで運んでいたのだが、下ろすのをいったんやめて装着場へUターン。装着作業をすることとなった。これでまた戦略が変わったりするのだろうか……?
今日はシリーズ優出組のほうが着水タイミングは遅い傾向で、遠藤と三浦が下ろした頃に水面に向かったのは刑部亜里紗のみ。刑部も係留所で安定板装着作業だ。
長嶋万記、今井裕梨はおそらく4Rか5R頃には着水しようとボート回りの作業を行なっていたのだが、下ろす前にまずは装着するべく、安定板を受け取りに行っている。
勝浦真帆も同様だったのだが、4Rのファンファーレが鳴る頃、控室のほうからダッシュで整備室に飛び込み、安定板を受け取った。速攻で装着して5R発売中には試運転を始めようという腹積もりか。蒲郡での優勝戦1号艇はすでに経験済みということもあるのか、落ち着いて過ごしているようには見えます。
守屋美穂は整備室の隅のほうに設けられているプロペラ調整所に姿が見えた。作業の様子は整備テーブルの死角になっていて見えないのだが、4Rまではずっとそこで姿というか顔が見えていた。安定板を装着する場面は目撃できていないが、これを書いている現在、水面で試運転しています。もちろん板は着いているはずだ。
というわけで、なんだか板絡みの話ばかりになってしまったが、これが仕上げに、レース展開に影響が出るや否や……。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)