児島ピットの喫煙所は、天気がいいと本当に気持ちがいい。目の前に瀬戸内の海が広がり、遠くには島も見える。この時期は少し風が冷たいけれど、海を眺めながら一服つければ仕事のストレスも幾分かは和らいでくれる。
選手もここにはよくあらわれる。選手用の喫煙所は他にあるはずなのだが、やはりこの爽快さがお気に入りなのだろう。今日など、喫煙者ではない平本真之も作業の合間にここへ来て、海を眺めていた。
峰竜太が、この場所で2R展示に備えてカポックを着けながら、一服していた桐生順平に話しかける。
「俺、何コースになるのか、イメージも沸かん」
「でも、そういうときの峰さんは強いじゃないですか」
「まあね」
「否定しないんかい!」
ダハハハハ、と僕もつられて爆笑。うん、のどかだ。選手も合間合間にここでいったん気持ちを落ち着けて、過酷なる戦いに臨むわけである。
休憩終了。ピットの選手たちに目を向けると、今朝のピットはわりと閑散としていた。4日目ともなれば、まあこんなものだ。整備室では瓜生正義が本体を割っている。予選トップが!? などと驚くところではない。瓜生のルーティンのひとつに「どんなにエンジン出ていても、一回は割って点検や数値の確認をする」というものがある。4日目12R1回乗りという今日などはまさに頃合いで、瓜生とは何も話していないけれども、まずこれに間違いない。これが瓜生の強さの秘密のひとつだと僕は思っていて、この作業が見られたということは、瓜生はかなり盤石ということになる。
石野貴之も本体を割っていたが、これも同様だろう。石野はその後、ギアケース調整も行なった。石野は準優当確だが、好枠獲りを狙って万全の態勢で今日の1走に臨む。
水面では、山口剛が熱心に試運転をしていた。山口は、今日連勝だとしても、6・00には届かない。事実上、予選突破は厳しい立場だ。しかし、山口は努力をやめようとしない。そこにレースがある限り、すべてが真剣勝負だ。今日の前半は6号艇。山口はホーム側の岸壁ギリギリのあたりを走って1マークを旋回。6コースからのターンを想定したものだろう。順当ならば最内差しとなるのだろうが、艇団を割っていくイメージはできただろうか。
そうして闘志燃やす選手もいるなか、1Rを6着で終えた江口晃生は、ただただ落胆していた。通りすがりにこちらの顔を見て、泣き顔を見せながら「もうダメ」。その後、JLC専属解説者の村田瑞穂さんの取材を受けていたが、「村田さん、こういうときはどうすればいいんですか」と泣きを入れているのも聞こえてきた。レースでは前付けで闘志を見せてくれたが、結果が出ないことでレース後の意気は上がらず。そんな力弱い江口晃生は似合わない! 後半戦も含めてあと3日、少しでも気分が上向く結果を出してください!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)