●よくぞ逃げた!
7R1号艇は村松修二。正直、厄介な1号艇だったはずだ。2号艇に好機引いた椎名豊。2コースでも普通にまくってくる強攻派でもある。3号艇に菅章哉。スタート展示から当たり前のように3カドに引いた。すぐ外側にこのまくり屋2騎が揃っているとは、あまりありがたくない1号艇だったかもしれない。
しかし村松は逃げた! 菅が伸びを欠いて脅威が薄くなってはいたが、椎名を制して先マイ逃走。このカードで逃げ切ったことは価値が高い。ピットに戻ってきた村松はなんとも力強い表情で微笑を浮かべており、それはまさに勝者の姿であった。お見事!
●ノーサイド
その7Rの2周1マーク、2番手追走の椎名の内から菅が小回りを仕掛け、両者は軽く接触。椎名はもたついたような格好になり、番手を下げてしまっている。ピットにあがってきた菅は、即座に椎名のもとに駆け寄り、頭を下げた。それほど危ないシーンには見えなかったが、椎名が後退するかたちになっただけに菅としては後味も悪かろう。
しかし椎名は、菅に気づくとすぐさま首を横に振り、右手をも振って、菅を気遣った。声が届いてきたわけではないのだが、こちらも悪かった、と言っているような、そんな素振りであった。故意に当てにいったり、悪質な航法だったりでなければ、接触には何らかの原因があるもの。6Rで羽野直也が不良航法をとられているが、それにしても直前の隊形がもたらしたもののように見えた。そうした場合、当事者同士に禍根は残らないものだ。椎名も菅も、しっかり切り替えて明日以降、失った分の得点は巻き返しにかかるのである。
●痛恨
8R、平高奈菜が1マークでキャビって転覆。選手責任でマイナス5点となっている。身体のほうは無事なようで、着替えを終えるとキビキビと転覆整備に取り掛かっている。明日も出走表に名前が乗ったし、大過はなかったようである。
とはいえ、やはり表情に冴えがないのは致し方のないところ。転覆整備をヘルプしていた菅と山田祐也に「ありがとうございました」と頭を下げた声も力弱かった。意気込んだはずの初戦でいきなり減点では、意気が上がろうはずもない。明日は6号艇で、一気の巻き返しも厳しく、落ち込む夜になってしまったかも。平高らしいレースを見せてもらいたいところだが……。
●気を緩めない
9Rは茅原悠紀が欠場し、2号艇の毒島誠がインコース。しっかりと逃げ切って、初日連勝! 叩き出した1分46秒9は、今日のトップ時計である。うーん、強い。速い。
最高の発進となったわけだが、毒島はモーター格納を終えると、整備室の隅にある機歴簿を細かくチェックし始めている。まだまだ出る。まだまだ出せる。そんな思いで、自身の相棒の素性を確かめていたのだ。その姿勢が、強者、ということなのだろう。凡人たるこちらは頭が下がるばかり……。
で、10Rを逃げ切った桐生順平も、毒島とまったく同じ動きを見せたのである。それが毒島と桐生だから、そういうことだよなー、と唸らされる。もし俺がレーサーだったら、その姿を見て「俺も!」と思えるだろうか……。と、にわかにわが身を振り返り、うつむくワタシでありました。
●これも感染対策
帰宿には1便、2便……と何便か設けられていて、仕事を終えた選手から宿舎に戻るのはどこも同じ。ただ、宿舎がピットに隣接されている場では、あるレースを境にして、●便として集合することなく、帰れる者から許されてバラバラに戻っていくのだ。これも密を避けるための感染対策。約50名ほどの団体生活なのだから、しっかりとした配慮がなされているのだ。
ここ大村もそうした場。競技棟の玄関からは徒歩20歩ほどで宿舎の玄関に到着するので、レースが終わって少し経った頃にそのあたりに目をやれば、三々五々、宿舎に帰っていく選手の姿が見られるというわけだ。
11R終了後、お疲れ様でーす、という声をかけられたので振り向くと、宿舎に戻る毒島と桐生なのだった。つい先ほど、飽くなき仕事ぶりを見たばかり。いやいや、お二人こそ、お疲れ様です! ゆっくり身体を休めてくださいね。
●背中が落ちている……
前半記事で、磯部誠が「今節はヤバイぞ」と呟いていた話を記したが、11Rにはキャリアボデー交換で臨んでいる。足的に進境があったかどうかはともかく、レースでは巧みに展開を突いているのである。前半も2番手を走ったし、この11Rでは1周2マークで3番手争いに競り勝っている。しかし道中で番手を下げていき、終わってみれば6着……。まだまだ厳しい足色のようだ。
ピットに戻ってヘルメットを取ると、絶望的に落ち込んだ顔があらわれた。対戦相手が次々と挨拶に訪れるが、頭を下げながらも冴えない顔色を見せている。エンジン吊りが終わって控室に戻る足取りはひたすら重く、その後姿は落胆がありありと伝わってくるものだった。うーん、頑張れ磯部誠! 明日も忙しくなりそうだが、なんとか逆襲を!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)