BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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前半ピット/ハッピーバース師弟

「実は、1Rのスタート展示がはじまる前のピットって、かなり賑やかで面白かったりするんですよ」

 午前9時45分、チャーリー池上先生の言葉に従って、そそくさとピットに向かってみた。「早起きは三文の徳」ってヤツですか。足を踏み入れると、まずは準優11R3号艇の前原大道がマイボートをなかなかの速さでグングン移動させている。前原の一走目は7Rだからして慌てる時間帯ではないのだが、気合のほとばしりなのか、体力が有り余っているのか(笑)、とにかく元気いっぱいに跳ねまわっているという感じ。ある記者から聞いた話では、昨日の段階で【準優3カド宣言!!】をしたらしい大道クン。今節、チルト3度に跳ねたお姉ちゃんの哉ともども、一時たりとも目の離せない姉弟なのである。

 大道クンの邪魔にならないよう、端っこを歩いて整備室の前に辿り着くと、室内ではかなり真剣な表情で来田衣織があれこれ本体を整備している。傍らでは「丸トレ・メイト」の勝浦真帆が心配そうに衣織を見つめ、その隣の香川素子がこれまた真顔で何事かをアドバイス。しばし整備をしてからボートに装着した衣織だったが、4Rのスタート特訓には間に合わなかった。これが「三文の徳」になるかどうかはともかく、衣織19号機の身辺に予定外の何かしらがあったと思っていいだろう。

 一心不乱にモーターをチェックする衣織や甲斐甲斐しくそれをサポートする真帆を見ていると、その横をスーーーッと音もなく、ゆっくり通り過ぎるレディーあり。準優12R2号艇の金田幸子だ。金田は昨日からこんな感じで、ピットの全体をゆっくりゆっくり右から左へ、左から右へ、ゆら~~~り往来する姿を何度も何度も目撃している。
「池上先生、金ちゃんはもう完全に仕上がってるから、あんな感じで何度もピットをふらーり徘徊してるんですかね」
 何気なく質問したらば、驚愕の答えが返ってきた。
「いえ、金田さんの場合、あのスピードでもいつもより速いくらいです。いつもはもっともっとスローモーに歩くんですよ。と言うことは、昨日今日の金田さんはいつも以上に気合が入っているという見方もできますね」

 うーーーん、なんと難解かつ奥深いピットの生態系であることよ……。などと感心していると、金ちゃんの向かい側からふたりのレディースが小気味いいスピード&華やかな笑顔で駆け抜けていった。寺田千恵と安井瑞紀の師弟コンビ。連日見かける光景ではあるが、今日はまた一段とラブラブな雰囲気。

 そう、本日5月9日は、瑞紀ちゃんの29歳のバースデーなのだ。そのおめでたい愛弟子が嬉しそうに右手を天井に突き上げ、師匠が目を細めて何事かを語りかける。シンプルに仕事の話なのかも知れないが、私の目には誕生日を祝い祝われる関係にしか見えなかった。とにもかくにも瑞紀ちゃん、おめでとう!

 そんなキャピキャピの師弟に触発されたか、周辺にいた5人ほどのルーキーたちも円陣を作るように集まり、「おうっ」「わおっ」みたいな元気いっぱいな声を発しはじめた。前検からお姐さま軍団の艶やかなオーラに圧倒されていたルーキーたち(←私の勝手な見立て)が、5日目にしてやっとこの大会の空気に馴染みはじめたか。

 でもって、さらにその片隅では、そんな若者たちとは一線を画してせっせと地道な作業をしているルーキーあり。今節のシリーズリーダーにして準優11R1号艇の新開航だ。主役の邪魔をしちゃいけない、と思いつつちょこっとだけ声を掛けてみる。
――新開さん、いい感じですね、出てますね。
新開「あ、はい、前検でもらったときからいい感じで、ペラを叩いてさらにいい感じで、上位の足だと思います」
――特に気に入ってるのは?
新開「スリット近辺の行き足ですね。スーーッと出ていく感じで」
――自力で攻められる新開さんにぴったりの足。準優は1号艇ですけどね。
新開「はい、しっかり合わせて逃げられるよう頑張ります」
――外には血気盛んな選手が鈴なりみたいですけどね。
新開「ですよね~、でも大丈夫だと思います。とにかく頑張ります!」
 彫りの深い顔だちが、さらにキリリと引き締まった新開クンだった。(photos/チャーリー池上、text/畠山)