BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――抜きつ抜かれつ

「昨日、クロちゃんが①-③-⑥って予想してたのにぃ」
 磯部誠が申し訳なさそうに顔を歪めた。節間毎日、僕と畠山で『展望BOATBoy』を18時からYouTubeで生配信しており、これはJLCで展望番組として放映もされている。つまり、JLCのほうは選手も宿舎で見ることができて、磯部もたまたま部屋でザッピングしていたら、自分の出るレースを予想しているオッサンに出くわしたらしい。なお、正確には①山口剛と③松井繁の両面狙いで磯部の2、3着付けでした。
 そう、10R、いったんは①-③-⑥がデキていた。しかし、磯部は瓜生正義に抜かれて4着に後退してしまったのである。瓜生はヌケ目でした……。リプレイをチェックしているとき、自分を予想したオッサンが近くにいるのに気づいた磯部は、そう言っておどけた、というわけなのだが、そんなのはもちろん単なる後付けである。抜かれたことがとにかく悔しくて悔しくてたまらなかった磯部なのだ。どうやら旋回の際にハンドルを切り直したのが敗着だった様子で、「あれが余計だった……」と悔し気に磯部はつぶやいた。まあ、せっかく磯部が振ってきたので、泣き真似はしておきました。明日はこの悔しさを水面にぶつけてくれるだろう。

 そう、昨日、磯部以上に悔しい思いをしたのが瓜生なのだ。先頭を走りながら、まさかの3周2番手でのミスターン。瓜生アタマを持っていたファンも頭を抱えただろうが、瓜生自身も心に大きく引っかかっていた2着後退なのだ。3番手を逆転で奪ったことで、瓜生のなかでそれが帳消しになったとは思わないが、少しでも昨日の分を取り返したいという思いはあったことだろう。エンジン吊りを終えた瓜生は、はぁぁぁぁぁぁっ!と大きな溜息をついた。少しは溜飲を下げられた、そんな安堵もあっただろうか。

 このレースでは原田幸哉がシンガリ負け。昨日、瓜生を逆転して1着になったのがまさに原田だったわけだが、それ以外はゴンロクの山。エース機を手にしたはずが、どうにもリズムが噛み合っていない。エンジン吊り後、原田は後輩たちに囲まれて、言葉をかけられていた。だが、原田の顔にはどんどんと苦笑が浮いていき、長身のはずなのにいちばん小さく見えるほど身を縮めていた。後輩たちにイジられてましたかな! 最後にどっと笑い声が起きて、解散。後輩たちの優しい檄に、明日はなんとか応えたいところだ。

 さてさて、今節は8R終了後から帰宿便が出ていて、仕事を終えた選手たちは順次宿舎に戻っている。便、といっても、宿舎は隣接しているので、徒歩30秒ほどで到着してしまうのだが。10R発売中、関浩哉がマグネットを使って、装着場の鉄くずを集めていた。これはいわゆる新兵が行なう仕事だ。今節は女子を含めても登番が最も若い関なので、終盤の時間帯には当然のように取り掛かっていたわけだ。

 そのとき、椎名豊が展示から戻ってきて、関の姿を見つけた。そして「関ぃー! 仕事ないなら帰って大丈夫だぞ!」と声をかけた。新兵としては、同支部の先輩のレースが終わるのを待たずに帰るわけにはいかないところだが、椎名は別に気を遣うなよ、と優しく声をかけたのである。優しい先輩! ま、結局、関は最後まで帰らなかったんですけどね。先輩の気遣いをありがたく受けながら、その後も甲斐甲斐しく働く関なのでした。

 9R、平高奈菜はバナレでインを獲りながら、落合直子にジカまくりを浴びてしまった。コースは入れ替わったが、①-②決着となったわけである。レース後、平高はボートごと整備室に持ち込んで、本体整備を始めている。そして、11R発売中になんと着水! 試運転を行なっているのだった。数周程度であがってきたことから、整備の効果を確認するための試運転だったと思われ、それを明日の整備調整につなげようということなのだと思う。ただ、平高にとっては緊急事態であるのは明らかで、手術を施す必要があるほど、機力に違和感を覚えているわけだ。予選は残り2日。平高らしい戦いが可能なところまで、相棒を上積みさせることができるか。

 なお、同じタイミングまで、金田幸子も試運転をしていました。大敗が続く金田、今日は1R1回乗りだったから、こちらも懸命に上積みをはかっている。鳴門はレディースチャンピオンを制した思い出の水面。このまま終わるわけにはいかないのだ。一矢報いるために、明日も調整は続くことだろう。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)