BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――沈痛勝負駆け

 王者がまさかのF……。10R、ピット離れで遅れ、回り込んで2コースを奪った松井繁は、1マークも巧みに差して2番手かと思われたのだが、わずかに勇み足。レースから離脱し、真っ先にピットに戻って来ることになってしまった。
 田中信一郎が先頭を切って出迎えに駆け付けるなか、松井は田中に何かを話し、田中の言葉に顔をしかめる。どれくらい切っていたのか、と田中に問うたのだろうか。コンマ02のはみ出しで、松井は賞典除外に。2着なら準優好枠は必至だっただけに、あまりにも手痛いFだった。なお、その後も松井は最後まで残ってペラ調整に励んでいる。こういうところが王者たる所以なのだろう。

 さらに前年度覇者がまさかのF……。11R、インコース発進の遠藤エミが勇み足。スタートを踏み込んで先マイし、先頭に立ったが、対岸のビジョンに「返還①」が出てしまった。昨年のこの大会で歴史を作った遠藤は今年、正反対の負の感情を背負うことになってしまった。これをひとつの糧として、またチャレンジするしかない。12R終了後には、同期の山田康二が慰める場面も。また、松井と言葉を掛け合っている場面もあった。慰め合ってたのかな。

 それにしても、やはり王者のFというのはとりわけ空気を重くするもので、10R後はレースが終わってもしばらく沈痛な雰囲気は消えなかった。ただし、3コースからまくって見事に勝負駆けを決めた関浩哉の周囲だけは、少々控えめにも見えたけれども、笑顔の輪が開いていた。童顔の関が仲間の祝福に応える姿は、実に初々しくも見えたのだった。これで一気に8位にまで浮上した関は、この後の結果次第ではあるが、センター枠は獲れそうで、関の攻撃性を生かせる準優となりそう。

 11Rでもやはり、沈鬱な空気が漂うレース後ではあったが、これまで群馬勢、土屋智則の周囲は少々華やかであった。土屋は2着に入り、これで予選トップ通過を確定させたのだ! やはり控えめではあったものの、同県の久田敏之や、同じレースを戦った桐生順平らに言葉をかけられて土屋は、ニッコリと笑顔を見せている。SG初優勝のチャンスがぐっと近づいたのだから、笑顔が出なければおかしいというものだろう。

 もちろん悔しい思いをした選手も少なくないわけで、10R1号艇で1着勝負だった井口佳典は、痛恨の敗戦。エンジン吊りを終えてヘルメットを脱ぐと、悔しさを隠し切れない渋面があらわれている。3番手を競った山田康二が笑顔で声をかけてきて、そのときは井口も頬を緩めて応えていたが、しかし目は笑っていなかった。山田と離れるとすぐに険しい表情に戻った。1号艇という確勝を期す枠番で迎えた勝負駆けだったからこそ、失敗時の痛手も大きいのだろう。

 11Rでは上平真二が3着勝負を4着に敗れて、厳しい状況に立たされてしまっている(実はこのレースの結果、ボーダーが下がって上平は18位にギリギリ残っている。そして結果は……18位に残った!)。髭と笑顔が素敵でしょ、の上平だが、レース後は勝っても負けても淡々としているのが常。このレース後も一見、表情をいつもと違えているようには見えないのだが、控室へ戻る足取りの重さがただごとではなかった。悔しさをぐっと押し隠しつつ、しかし歩様に感情が見え隠れするという。穏やかな人であるのは間違いないが、やはり心中には燃え滾るものがあるということだろう。

 12Rは、無事故完走で当確は6号艇の河合佑樹だけだったのだが(5号艇の岡崎恭裕は勝っても届かず)、結果的に18位圏内にいた選手たちはみな、必要な得点をゲットしている。唯一、圏外からチャレンジした宮地元輝が1着勝負だったが、4カドから攻められずに3着。無念の予選落ちとなった。やるせない表情をしていた宮地に、同期の桐生順平が声をかける。登番1番違い、同じ釜の飯を食った同期生の言葉に少しは癒されただろうか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)