BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――悔恨の数々

 11R。まずは、昨日の転覆という悪夢を振り切って逃げた山口剛に拍手だ。それでも2nd進出はならなかったわけだが、シリーズに回るにしても、少しでも得点を上積みして向かえるのは大きなことだ。2nd行きがかなわない勝利だとしても、山口の表情は明るかった。昨日抱えた鬱憤をひとまず晴らすことはできたのだろう。

 その山口にツケマイで攻めた平本真之は、ピットに上がって開口一番、「山口さん、すみませんでした!」と叫んだ。平本としては渾身の勝負手。だからもちろん謝る必要など1ミリもないのだが、意表の攻めを繰り出せば頭を下げるのがボートレーサーの流儀。それに対して山口は満面の笑みで応えている。そのツケマイは、勝利には届かなかったけれども、2nd進出につながるものとなった。敗れたとはいえ、会心のツケマイだったのだ。

 一方、19点で並ぶことになった3人は、やはり翳のある雰囲気であった。上位着順の差で、片岡雅裕がその3人のなかでは最上位。しかし、なにしろ6着に敗れて上積みに失敗しただけに、普段はあまり表情を変えることのない片岡がさすがに哀しそうな顔つきになっていた。羽野直也も同様。昨日の大きな着順も含めて、やっちまった感が強くにじみ出る格好。毒島誠はヘルメットをかぶったまま控室まで戻っていったので、雰囲気自体はわかりにくかったが、濱野谷憲吾とレースを振り返り合いながらの帰還は悔しさを紛らしているように見えなくもなかった。

 この時点で勝ち上がりを確定させたのは濱野谷憲吾のみ。4着に敗れてスッキリと勝ち上がり、とはいかなかったが、まずは胸を撫で下ろした格好。明日からはさらに研ぎ澄まされた濱野谷憲吾を見せてくれるだろう。

 12R。まずは、スタート展示は4コースまでしか入れなかったのに、本番ではさらに動いて2コースを奪った土屋智則に拍手だ。初戦6着で後がない6号艇。これしかないという勝負手を放ってきたのは、結果6着ではあったが、ナイスファイトと称えられて然るべきだ。その瞬間、ボートリフトあたりで見ていた群馬勢、そして同期の西山貴浩が沸き上がった! そしてレース後は、土屋を笑顔で出迎えた。土屋も、ここまで思い切った勝負に出たのだから、敗れたとはいえ、昨日のレース後とはまったく違う表情を見せている。

 土屋はもちろん1号艇の中島孝平に頭を下げたが、中島もまた、土屋に頭を下げている。やや強引なイン奪い返しにも見えていたから、そのあたりへの詫びであろう。もちろん土屋も頭を下げ返し、まさに全力をぶつけ合った真剣勝負を繰り広げたふたりの爽やかなレース後なのであった。

 ホッとした表情を見せていたのは今垣光太郎だ。2戦続けての6コース発進。しかし今日は奏功しての2着で、勝負駆け成功! 昨日5号艇を引いた時点では暗い思いにもなったことだろうし、6コースに回ったときも不安のほうが大きかったはずだが、厳しい条件をクリアしての2nd進出! 明日もまた6号艇になるわけだが、2度の6コースを乗り越えたことはデカい。

 桐生順平は4着。初戦勝利分が活きての2位通過となったが、レース後の様子はとても勝ち上がりの選手とは見えなかった。やはり納得のいくレースができなくての敗戦は、桐生にとって耐えられないものだったか。その時点では2位通過ということもはっきりとは把握できていなかったかもしれないから、なおさら悔しさのほうが倍加していたか。

 4着なら2nd行きだった深谷知博もはっきりと落胆した表情を見せた。落胆というよりは、1stを勝ち上がれなかった屈辱を強く感じているような、そんな顔つきだった。

 それよりも、もっと辛そうな表情になっていたのは菊地孝平だ。1マークは1等も視界に入るまくり差し展開で、実際中島に舳先をかけている。しかしバックで振り切られ、そのまま2着キープなら2nd行きだったものを、今垣にも逆転を許してしまった。呆然としていた菊地だが、その内心は痛いほど理解できる。あの展開で勝てなかった、しかも2着をも守れなかったことが、どうしても信じがたいということだ。まさに痛恨すぎる敗戦。聡明な菊地でも、そこでどう振る舞うかの答えは導き出せなかったわけだ。

 結果、11Rで6着に敗れた片岡雅裕が6位に残った。得点19が5人並び、2着があった片岡が最上位だったのだ。しかし、片岡はまったくそのことを把握しておらず、12Rのエンジン吊りから普通に控室に戻り、その途上で報道陣に知らされ、残ったことを知ったという。片岡は驚きの表情を見せており、そして森高一真が実に嬉しそうだったと伝えておきます。レース後、峰竜太にプロペラのアドバイスを得ていて、それが明日生きるかも!?

 

 シリーズ。西山貴浩が妙に神妙だったのである。5Rを逃げ切って、巻き返し成功の2日目。もっと弾けていてもおかしくないのに、そうではなかった。9R発売中、装着場の柱に貼られた出走表を5分ほども見つめている場面もあった。いったい何を見ていたのか、あるいは見ていなかったのか。そっとそばを通りかかったときも、西山は微動だにせず出走表を見つめていた。もちろん仕事はいつだって真面目にやっている男だけれども、こんなに静かな西山はなかなか見られない。何か思うところがあるのか……。

 松井繁がゲージ擦りをしていた。これも今まであまり見た記憶がない。いや、こちらが見ていないだけで、どこかのタイミングで行なっていたのであろうが、どの場の整備室でも設置されているゲージ擦り専用のテーブルで、王者を見た記憶はたしかに薄いのである。この作業に松井はかなり没頭していて、エンジン吊りにはいつも整備室から走って登場。終わるとまたもや走って整備室へ。今回のペラに当たりを感じているいうことなのか……。
 西山は勝利者インタビューで「グランプリに戻りたい」と言った。王者の頭にはそれしかないだろう。シリーズを走って、いろいろ思うところが生じてくる。ここはシリーズ組には何かを感じさせる場所なのかもしれない……。

 なお、本日遅くまでTEST RIDEをしていたのは上條暢嵩、関浩哉、そして守屋美穂でした。今朝TEST RIDEのプレートに気づいたので、つい注目しちゃったのでありました、はい。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)